AC父と娘の不器用な交流-『僕と彼女と彼女の生きる道』ネタバレ感想
3,4か月前に鑑賞し、長らく放置していたので感想供養します。
この作品は幼少期まったくテレビと馴染みのなかった私でもタイトルを知っていたぐらいなので、草なぎ出演作の中でも相当ヒットした部類なんだと思います。草なぎがちいちゃい口でハーモニカをモゴ…と咥えるシーンだけはなぜか記憶にうっすら残っていました。
お涙頂戴っぽい雰囲気から何となく敬遠していたんですが、意外にも冷徹な批評精神をベースとしていて、独特の無機質な雰囲気といい色んな人に見てもらって感想を聞きたくなる作品でした。
あらすじ
主人公・徹朗は仕事一筋の銀行マン。ある日家庭を一切省みない傍若無人ぶりに愛想をつかされ、妻・可奈子が一人娘を置いて家出してしまう。
いきなり父娘の二人生活を強いられ、祖母や家庭教師・ゆらの援助を受け不器用ながらも親子の在り方を模索していく、機能不全家族の再生物語。
ほころびの元-徹朗-
徹朗は支配的で無理解な父親との関係性が根深い傷となっているが、結果的に父親の望む通り堅実に銀行に勤め、父親と同じ仕事人間の道をたどっている憐れな男。昔父が母にしていたように育児は妻の可奈子にまかせっきりで我関せず、そして自分がされたように、娘がひとたび失敗すれば感情を抑えられず怒鳴り散らす。
アダルトチルドレンが自身の傷と向き合う前に人の親になってしまい、無自覚なまま親にされたことを自分の子にも繰り返してしまう姿、その痛々しさを画面いっぱいに映し出していた。
特に、凛が宿題の音読してて徹朗が横に来た途端どぎまぎして噛み噛みになるところや、それでわざとらしくため息つかれて余計焦ったりするところは、地味なワンシーンだけど息の詰まりそうな家庭環境を象徴していた。
また、凛がハーモニカ吹いてたら「うるさいんだよ!!!」って怒鳴って取り上げるシーンの草なぎは、まさに精神ギリギリで視野狭窄になった毒親そのもので妙演。草なぎってこう…ポケーっと突っ立ってるみたいな印象がどうしてもあるんだけど、芝居というフィールドになるとこんなにも苛立ちや焦燥、攻撃心を鮮やかに表出できるんだなあと、本当に意味の分からん男だなと謎が深まった。
あと連絡帳の書き方も知らないような無知な男なのに、外面を気にして教員にモンペ扱いされるのを異様に恐れているあたりも驚くほどリアル。
ぼんやりしたタイトルからは想像つかないほど、毒親とその子のストレスフルな暮らしを入念に描いていて、視聴者のトラウマを呼び起こすような真に迫るものだった。
そして、そのような親の身勝手さ愚かさだけでなく、突如始まった二人生活に対する戸惑いや、家事・育児・仕事に忙殺されて自分を客観視できなくなるという徹朗自身の立場や心の動きについても丁寧に描かれていた。
また序盤の凛の可愛げのなさも絶妙で、親は子どもだからといって無条件にかわいいと思えるわけではないし、そして子ども自身もそのことを分かっていますよというシビアな現実が示されていてよかった。
そんな風に父娘の関係性がまだ出来上がってない時の徹朗はキッツイ顔してて本当に怖いんだけど、心が通い始めてからはだんだんと柔和な顔になってくる。
草なぎが子どもと戯れる様ってあまり想像できなかったんだけど、意外にいいお父さんやってんなあというか本当に心から楽しんでそうで困惑した。ただの演技に過ぎないはずなのに当時から父親願望あったんかと思うほど幸せそうな表情してて、凛を抱いて雪の上でくるくる転がるところや寝る前そっと抱きしめて髪の毛に唇触れるところとか、あまりに愛があふれててほんのり苦しくなった。一番草なぎの演じる力を感じた箇所だった。
もう一点見どころ。要潤演じる部下の岸本が徹朗の家を訪ねた後、
「小柳さん彼女いるのかなあ…
行ってすぐ女の髪の毛発見した♡」
いやらしい…。岸本と坪口(徹朗の不倫相手)が徹朗を取り合う物語?なんて変態ちっくな顔をしてるんだ奴は…どんな場面でも徹朗にいやらしい視線を送っているように見える、最高だ…。草なぎとキャナメジュンって相性良いですね。香取さんとかつつみんもそうだけど、草なぎの横には顔の濃いでかい男を置いとくのが吉だね。
フィクショナルな女神-ゆらー
そして本作のヒロインで家庭教師のゆら。生徒の凛だけでなく徹朗のお世話までする羽目になったお人よし。
正直、ゆらというキャラクターについてはかなり疑問。徹朗にとってあまりに都合が良すぎるので…。
物語上「妻に逃げられたかわいそうな独り身の男」の身の回りをサポートしてあげるヒロインが必要なのは分かるけど、家庭教師に母親の役割担すな!過剰サービス!シッター雇え!!に終始する。
プライベートすぎる相談をしても嫌な顔一つせず、夜中に電話かけたり家まで行ったりしても許してくれて、娘とのコミュニケーションの仕方や連絡帳の書き方まで教えてくれる。ついでに恋愛対象にもなる、という家庭教師・母親・彼女のすべての要素を満たすあまりにドリームな存在で、他のリアリズムっぽい要素との対比で一層不自然な感じがした。
『スペシャリスト(草彅と南果歩ダブル主演ドラマ)』を見て「なんだかんだ言って横は若い女の子の方がいいな~」とか最低の感想を抱いたくせに、実際若くて綺麗な女の子が主人公に都合のいいキャラとして登場するとブチギレてしまう、矛盾…
許されたい母-可奈子-
そして可奈子。子どもを捨てパリへ飛んだ挙句、突如舞い戻ってきて親権を奪い去っていく風のような女。行動力はある。俊敏。
1ヶ月連絡取らないで子どもに「自分は捨てられた」という絶望感を与え、いきなり戻ってきたかと思えば今度は一緒に二人で暮らそうなんて、子どもの気持ちを弄んでると言えばそう。
途中で「凛を愛してない」って明言して、それも衝撃的だったんだけど後にその発言に対して
あの時はそう言うしかなかったの。
気持ちが不安定で1日も早くあの生活から抜け出したかった。
新しい人生踏み出そうと思ったら凛を捨てるぐらいの覚悟が必要だった。
こんなん言えるのがね~~ヤバイのは徹朗だけではなかったという……。
普遍的な親子愛や母性信仰を真っ向から覆すもので、いっそすがすがしくはある。
「母親である前に一人の人間です」宣言は別にいいんだけど、それで子を(自分が見限った男の元に)捨てるという選択肢が出てくるんだなあと、子の側としては引いた。また、母親という特権で捨てたものを当然のごとくもう一度取り返せると思ってる傲慢さを感じた。そういうエゴや自己矛盾も含めて、親という一人の人間だというメッセージなんだろうか。
可奈子が精神的に追い詰められて最良の判断ができなかったのも理解できるし、母親という立場にも逃げ道は用意されるべきで、時に道を間違ったって許されるべきだとは思う。徹朗も改心したと言っても見切り発車で会社辞めてフリーターになるような信用ならん男だし。ずっと凛の面倒を見てきた分、自分の方が親として適任だという自負があって当然。
しかし当の凛は、一度自分を捨てた母親に対して感情をうまく言語化できる歳じゃない。母親を責め立てることもできないまま、長い間モヤモヤを抱えて吐き出せないまま生きていくことになる。それが一番ずるいところだな〜と思った。親は子どもを捨てられるけど、子どもはずっと親に執着せざるを得ない、親子という関係性の不均衡さを強く感じた。
なんか自分が母娘関係で上手くいってないからめちゃくちゃ凛に感情移入してしまったな…
全体
全体を振り返ると、監督の意図なのか日常シーンも家裁での親権争いもストイックなまでに淡々と・静かに描かれるからドラマ的な盛り上がりはあまりないが、絶妙に心掴まれえぐられる作品だった。
徹朗は改心していい父親になりましたと言っても結局妻も職も娘の親権も失うという不条理っぽい結末なんだけど、その「嫌な味」を極限までニュートラルにした不思議な仕上がり。徹朗・可奈子のどちらか一方を断罪したり、明確なメッセージ性を打ち出したりしないところに、視聴者の言葉を誘発する装置としての機能があると思う。
徹朗とゆらと付き合うエンドについては、凛はまだ幼いからいいかもしれないけど可奈子は絶対に嫌だろ!そういう家族の形があったっていいと思うけど徹朗に都合良すぎてうすら寒いな~とは感じた。自分が雇った娘の家庭教師と付き合う夫…。可奈子、俺が抱きしめてやりたいよ……。
とは言え、誰と暮らすかも重要だけど、離れてる親とどう付き合っていくかも重要だよねというのは本当にそう。離婚した親とも良好な関係を保ち続けられるってのは非常に理想的な形だよね。
しかし何と言っても一番の見どころは、銀行員にはおよそ見えないくるくるふわふわロン毛の草なぎ。エレガントでキュート。これだけで見る価値あり。みんなに29歳の草なぎの美しさを見てほし~よ
以上!
ありがとうございました。
SMAP オールタイムベスト150曲
SMAPさん30周年おめでとうございます~~!!!
SMAPの20年以上にわたる活動の中で生み出された名曲の中から
厳選した150曲について書きました♪
以下、ジャンルごとに紹介していきます♫(分類はメチャクチャです♬)
殿堂入り(15曲)
(私の中で)殿堂入りソング集。
青いイナズマ
22枚目シングル。
世界で一番好きな曲。音、歌詞、PV、メンバーの美貌・声、どれを取っても完璧な采配。
彼女の浮気に気付くも追及する気概はなく、寝取られ妄想をして感傷に浸りマゾ的興奮を得るかわいそうでかわいい男の歌。林田健司のファンキーなサウンドに、全身を洗い流されるようなカタルシスと脊髄を走り抜けてく高揚感、絶頂の先にある無常を予感させるかのような切なさが詰まっている。
僕はジェラシーの渦の中
君のあらぬ姿思う
違う誰かを意識しながら
媚びて微笑むのさ
重度の感傷マゾだ。
このパート、元々は当時19歳の香取が歌う予定だったらしく、想像したらあまりに性的でひっくり返った。この時の香取はミュージカル劇団の若手俳優のような均整のとれた肉体美を誇っていて、内側にほのぐらい炎があって、19歳の魔的な魅力にあふれていて、神のごとく美しくて……最高すぎ。泣けてきた。
見苦しいほどに 問いただせたら
悲痛な気持ちも 楽になれるけど
刹那的なエクスタシーのきらめきとその空虚、儚さ、また恋焦がれる気持ちのじっとりとした重みや湿度、またそれを自嘲するかのような冷徹な視線の内在。快感と苦悶が入り乱れた詞世界と、それをあくまでも「大衆を惹きつけるポップス」としてパッケージする良質で力強い音楽。それを歌い踊る夢のように美しい若人たち。青いイナズマって本当にすばらしい…。
歌唱においてとりわけ優れているのは、やはり歌い出しの木村。ひときわ華やかで濃密な色気を纏った声で、一瞬にして引き込まれる。続く「君が誰かといるだけで 胸を不安が締めつけるよ」も吾郎の鼻に抜けきらないようなアンニュイな声がめえ~ちゃくちゃセクシーで、曲が一気に色付き世界観が確立される。
$10
10枚目シングル。『SMAP 005』(1994)収録。
林田健司作の言わずと知れた名曲。私がSMAP関連で一番初めに聞いたのは林田健司の$10セルフカバーだった。歌詞内容は金のかかるカノジョに振り回されて破産寸前の男の悲痛な叫び。しかもそんな尽くしたのに逃げれられる一歩手前。男の悶えってどうしてこんなに色っぽいのか……。青イナもそうだけど、林田健司のファンク歌謡と「悶え」ってめちゃくちゃ相性が良い。なんか作り手側のエクスタシーをダイレクトに感じられるんだよね、だからこそ作品に没入できるし、共鳴している感覚さえも得られる。
「3doller=みだら」のダジャレについては、発想力や語感の良さはもちろんのこと、純度の高い"軽薄さ"が本当にすばらしい。とことんこの「軽薄な快」と、その向こう側にある陽気なカオス、LSD的幸福感がポップス及び"ポップさ"の本質だと思っていて、つんくとかシダケンってそういう世界作り上げるのが天才的に上手いよな…と感じる。最高。大好きです。コンサートで森がソロで$10を歌ってたのがカバー及び楽曲提供のきっかけだったらしいが、マジで森の人生トップ3に入るぐらいの功績だと思う。
がんばりましょう
14枚目シングル。
タイトで洗練されたR&B。タイトルやサビの印象から脳死ポジティブ応援ソングのように見えがちだが、サウンドは非常にクールでシックな仕上がり。また歌詞も気だるさや無気力っぷりを散々曝け出した上で、それでも日々を頑張っていかなくちゃいけないねと、他人への応援というより自己に言い聞かせ奮い立たせるおまじないのようなもの。
仕事だから とりあえずがんばりましょう
かっこわるい毎日をがんばりましょう
びっくりするぐらいの明け透けっぷりと、根底にある「かっこわるさ」の肯定・受容がアイドルポップスとして非常に斬新。きらびやかな世界を体現しながらもこのようなしょっぱい感覚を繊細なバランス感覚をもって表出してしまえたところに、SMAPというグループの優れたる所以があると思う。
SHOGATU Sound Machine
『BOO』(1995)収録。
SMAP史上最も優れたリミックス曲。『BOO』が燦然と輝く名盤たる所以がこの曲にある。「Fade Out」→「Shake U Up」→「Subway Kids」→「Scarface Groove」という構成で、001~003の初期アルバム曲をスタイリッシュなヒップホップにアレンジしている。各曲はゆるやかに連結され、アシッドな打ち込み音とブラスで再構築されることで、一曲のダンスミュージックとして完全無比の仕上がりとなっている。無駄を削ぎ落したドライなサウンドに、まだ10代そこらのおぼこい歌声が乗せられるアンバランスさが何とも味わい深い。
たぶんオーライ
15枚目シングル。『SMAP 007〜Gold Singer〜』(1995)収録。
ジャジーで力強いグルーヴを推進力として展開していくR&B。セクシーな曲調に反して、ほのぼのしながら、ジタバタしながら日々をこなそうという気の抜けた励ましが何とも染みる。日々もがいている普通の人々の無数の小さな苛立ちや幸せを歌い、楽観的に肯定してくれる。
余計な仕事おしつけられて
あんのじょうミスが山積み
そりゃまぁ申し訳ないですけど
このふてぶてしさ、いとしさ!SMAPの曲、わりと言い訳がましい部分とかふてぶてしい態度を素直に表現するのでとてもかわいらしい。SMAPの歌う若者像は時に「はだかの王様」のように放埓で自堕落だったり「人知れずバトル」「それが痛みでも」のように清くまっすぐ苦悩したり、「がんばりましょう」やこの曲のように日々のやるせなさを割り切って生きていく姿だったり、そのどれもがリアルな肌感覚に合っててすごい。
香取ソロの「わりにあわないやなことを眠って忘れましょう」は少年から青年になりたての香取の若樹みたいな身体性・エネルギーを感じられて最高にエッチ。
16枚目シングル。『SMAP 007〜Gold Singer〜』(1995)収録。
林田健司作の名曲。華美でポップで色気たっぷりの曲。シダケンって…すばらしすぎ!?カンシャして!キッスして!情熱的にして!って最初聞いた時は何~!??ってなるけど、底抜けの明るさハッピーさで押し切られ、訳がわからないまま魅了され渦にはまってしまう。気位が高くて金のかかる強気な女性像は90年代らしいな~という感じ。
愛さえあれば いいと言いながら
プレゼントの値段だけで気持ち計ってる
とか散々言っておいて、サビ前の盛り上がりでは
愛のために捨てるものがあるとしたら
よろこんで 捨てたいけど
なの、矛盾だらけで素直でかわいいなあと思った。最初「感謝して!もっとして!」ってどんな歌だと思うけど、貪欲で率直で人間味のあるかわいい女なんよね。愛が欲しいのも見栄貼りたいのも抱かれたら抱かれたで醒めるのも彼氏に強気なのもかわいい。木村は女性目線の歌が本当に似合う。
しようよ
17枚目シングル。『SMAP 007〜Gold Singer〜』(1995)収録。
作詞:森浩美、作曲:馬飼野康二という最強の布陣。華やかなサックスソロや力強いドラムが印象的なファンキーなサウンド。しようよというドキっとするタイトルにまず目を惹かれ、何をですか?という下世話な期待がサビで見事に裏切られる。最初はそのまま「話をしようよ」というタイトルになる予定だったらしいが、ダンチで省いた方がかっこいいな。あまりに秀逸。うまくいってない恋人がお互い素直に話をしよう、というシンプルで率直な歌詞内容だが、得も言われぬみずみずしい情感があふれている。
毎日楽しいことばかりじゃないし
もうほとんど繰り返しで
話すネタだって探すのに苦労するけど 努力しよう
このリアリティ!生活感!実際の会話のような身近さ・素朴さと、空気中に漂うような心地良いグルーヴ感、ソフトで軽やかで儚いきらめきをもったSMAP歌唱、どれをとってもすばらしい。そして「君がいなけりゃ淋しい」というワンフレーズ、特別な表現じゃないのになぜかすごく惹かれる。
どんないいこと
18枚目シングル。『SMAP 008 TACOMAX』(1996)収録。
暖かい陽の中さあさあと降る細かい雨のような、しっとりとした上質なR&B。20年にわたり愛される国民的アイドルとしてのSMAP像の源を見る。彼女にフラれて食い下がるために追いかけるけど、遠くから見えた彼女の態度から失恋を確信する歌。キャッチーなフレーズの中に諦観と孤独の切なさが宿る。
どんないい服着て どんないい顔して
街はTic Tac時を刻んでゆく いつまでも
この無常感を、あくまでもさらっとソフトに歌い上げる姿が愛おしく切ない。
はだかの王様~シブトクつよく~
21枚目シングル。『SMAP 009』(1996)収録。
ズルしたり女と遊んだりと自堕落な生活を送りながら、こんなんでいいのかなあと一応気にしてみる男の歌。しかし結論は「甘々で許してニャン♡」という、異常な自己評価の高さや甘え上手っぷりから、かわいくて不遜でエロい年下の男の姿が見て取れる。「人知れずバトル」なんかとは対照的な、うまく逃げ切っちゃおう的思考。
はだかのままが
ホントに気持ちいいんです
これは自身の愚かしさ・傲慢さ・盲目な様を省みずそのままさらけ出す恥知らずな状態でいることの気持ち良さだと解釈したが、ギラギラした男たちが歌うとなんかやらしいな!
シャンプー3つ
『SMAP 009』(1996)収録。
009では「マラソン」と並ぶ屈指の名曲。踏んだり蹴ったりでムシャクシャする日々を、シャンプー3つを気分によって使い分けることでやり過ごしている男の歌。髪の洗いすぎによるハゲを気にするなど、きわめて小市民的で愛すべき男の姿がある。ファンク特有の重めのグルーブが曲の推進力となっているが、SMAPのボーカルが乗ると不思議とふわっと軽やかになってそのバランスが心地良い。技巧と遊びが極限まで高まって、孤高の存在感を成している。
ダイナマイト
24枚目シングル。『SMAP 011 ス』(1997)収録。
ねっとり濃厚な色気を纏ったダンスナンバー。
サビ前の香取ソロは、20歳なりたての早熟な色気と野性をはらんだ解放の気分を堪能できる。香取は美少年特有のかなしい冷たさと、高潔な野獣のようなエネルギッシュさを兼ね備えていて本当に神様。
昼はどんな顔で 退屈を飼い慣らして
スリットの透き間から悦しいユメをみる
官能的な内容でありながらどぎつくならずにかつ色気を保つ微妙なバランスで、詞世界に聴衆を引き込む強烈な引力をもったキャッチーな歌詞が魅力。
世界は僕の足の下
『SMAP 012 VIVA AMIGOS!』(1998)収録。
SMAPには珍しくソロパートがなく全編コーラスで、淡々としたシンプルな構成の中に静かな脈動を感じさせる曲。不器用でお人よしな主人公が、日々に疲弊を感じながらも来週の誕生日や親友と会う約束など小さな楽しみを訥々と歌い上げる。いつも損な役回りで決してかっこよくは生きられない自分をありのままに肯定する歌だが、あまりに物分かりの良い淡々とした語調から、諦観・達観に至るまでの苦渋やかなしみが想起される。さっぱりとしたポップなサウンドの奥に得も言われぬ切ない情緒が潜んでいる。
世界はこの足の下 そう思えた
矛盾や世のしくみを知っても
正しい酒の飲みかた 覚えられた
来週 親友にも会う
詩としてあまりにも美しい。庶民の小さなよろこびや諦めを鮮やかに、かつ気負いなくさらっと歌い上げた奇跡の曲。
リンゴジュース
『SMAP 012 VIVA AMIGOS!』(1998)収録。『夜空ノムコウ』(1998)のc/w。
SMAP史上に残る大傑作。
追い詰められてギリギリになってナイフをふりかざす君に、こんな小さな果物ナイフじゃだれも脅せない、それくらいならリンゴジュースを作ることに使おうと諭す歌。自傷や他害を思わせるナイフの鋭さと、リンゴジュースを作ろうという脱力感のある提案の対比が鮮烈。一見、大人の人生経験に基づく諦念じみたアドバイスのようだが
こんな小さなフルーツ切るナイフ
いまどき誰も脅せないよ
君の言う話が本当なら
皮を剥ぐような本物がいい
でもきっと 大丈夫だよ 君に必要ない
君がその耳で確かめたらいい
でもきっとそれだけだよ 何も見つからない
など挑発するようなセリフにどこかひっかかっていると、最後の「ぼくのこと今でもそんなにも許せないかい」で語り手が君を追い詰めている張本人だと明かされるド級の陰鬱曲。また、展開の不穏さに反してSMAP5人がさわやか青年ボイスで歌うのがより異様な雰囲気を際立たせている。木村の官能的なフェイクはうねるようなギターと絡み合い、至高の輝きを放っている。
Duo
『SMAP 012 VIVA AMIGOS!』(1998)収録。
稲垣吾郎の魅力が最大限発揮されたSMAP012きっての最高傑作。失恋の悲痛さ・切なさに陶酔するような感傷マゾ的きらめきにあふれた至高の一品。ピアノやホーンを中心とした華やかで洗練されたポップなメロディの中に、あふれんばかりの"悶え"がある。吾郎の中性的な声色・か細く苦しげな発声が身をよじりたくなるような煩悶を鮮烈に表出している。
何気ない感じで君が
ドアを開け戻ってきたら
ここの解放感と切なさは、もー…すばらしすぎて言葉が出ない。同アルバムの「Possession Possession」もだけどSMAP012は吾郎がめちゃくちゃ良い味を出してる。SMAPのフラれ曲には吾郎!スマッピーズ版も最高だし、マジでこれだけでテッペンとれる曲。なぜこれほどの名曲がシングルカットされなかったのか疑問。
Fly
30枚目シングル。『BIRDMAN〜SMAP 013』(1999)収録。
渋味のあるギター、ベースが効いたブラックな質感。ストリートに生きる男の孤高のダンディズムを感じる曲。超一流のサウンドと5人の歌唱の異物感・デコボコ感が逆に強烈なインパクトを生み出し、ヒリヒリした輝きを帯びている。PVは石井克人によるナンセンスギャグを含んだハードボイルドな世界観で、サウンド的にも視覚イメージ的にも男性アイドルの最高峰を成している。大傑作。
Jポップ(40曲)
王道ポップス群。
はじめての夏
8枚目シングル。
夏草の青さを思わせる、みずみずしくて清潔で若い力に満ち溢れてる爽快感のある恋の歌。小さな恋のメロディみたいな…。まだおぼこいSMAPが背伸びして「僕は特別の恋なんて 望んでなんかいないよ」なんて歌うのがいじらしい。ヒロム絶頂。未熟なボーカルに反して、ギターがチョクチョク鳴って技巧的なのがアンバランスでいい。
どうしても君がいい
『君は君だよ』(1993)のc/w。どう考えてもこっちの方がA面じゃないか?
作詞:小倉めぐみ、作曲:馬飼野康二の最強タッグ。沈みゆく夕日バックの河原みたいな切なさと青春の味があり、90年代に夕方に流れるアニメ主題歌っぽい。
出だしの「かわいくない唇 憎まれ口ばかりさ 目の前に立ってたら すぐにふさぐのに」がかわいっ…声が若い!
言葉だけじゃ 始まらない 抱きしめたら 信じさせる
何もかも 伝わる気がする
に若者らしい根拠のない誇大妄想的自信と有り余るエネルギーを感じて、かわいいな~ってキュンとする。「どうしても君がいい なんでかわからないけど」ってどストレートで極限にシンプルな詩なんだけど、ものすごく好きです。疾走感があって、目の前を駆け抜けてくきらめき。
話をしていたくて
『$10』(1993)のc/w。
$10のカップリングとは思えない清涼感のある正統アイドルポップス。片や女に貢がされてすかんぴんの男、片や告白して両想いになったばっかりでテレテレしてるいじらしい学生二人。甘すぎて脳髄が溶けて耳穴から流れ出しそうです。
Cry
『SMAP 003』(1993)収録。
木村・吾郎・森。オメガトライブを想起する80年代風シティポップス。木村が歌唱力の高さが際立つ。木村の芯の通った声と、こっ恥ずかしいぐらい清涼感のある西海岸サウンドの相性が非常に良い。
永遠に抱きしめたい
『SMAP 004』(1993)収録。
森ソロ。王道のラブソング。001でのソロ(『Angelの秘密』)と聞き比べると格段に歌が上手くなっているのが分かる。カツユキの美声は国の宝よ。さらっとした質感なんだけど豊かな響きをもっていて、まさに好青年といった声。すばらしい。
11枚目シングル。『SMAP 005』(1994)収録。
林田健司作、安定の名曲。疾走感・躍動感と全体を包む幸福感がすばらしい、老若男女に愛されるポップス。弾けるようなパッションが鮮度そのままストレートに胸に伝わってくるのは、林田健司という男の天才の所業。「ooh 愛してる…」のとこの木村、神の采配。こういうのやらせたら天下一品。「心ごと体ごと 胸に秘め事」の語感の良さはもはや美すら感じる。天才。
『SMAP 005』(1994)収録。
恋人とケンカしたときの気まずい時間が永遠に感じられる歌。声を掛けたいけどあと一歩が出ないとウジウジしつつも、結局最後はちゃんと仲直りデートのお誘いをする出来た男。ポップで明るくてちょっと切ない、でもその切なさに踏み込ませないみたいなソフトでデリケートな質感表現するの上手いよな~SMAPって…
君が何かを企んでいても
『SMAP 005』(1994)収録。
タイトルからして目を惹かれる。『ほっとけないよ』の楠瀬誠志郎作曲で、さわやかでソフトなポップス。彼女は別れたがってるけど「僕なら僕のペースで 君を好きになるよ 恋は思い通り進まないさ いつも…」かわいそうなぐらいポジティブ。現実逃避。強がりさんめ… 005って全体的に未練たらたらの曲が多い。
僕の冷蔵庫
『SMAP 006〜SEXY SIX〜』(1994)収録。
草彅&香取。「ちょこみんとあいす~買ってこよ~♬」のつよしかわいすぎて、捕獲したい…網とか仕掛けて……。20歳と17歳の甘々でキュートなボーカルが愛おしい。憧れのレトロな冷蔵庫買って、きみが夜突然来ても困らないようにチョコミントアイス買ってこよう、というすばらしい詞世界。その上、
もしも君と口論をして めまいが襲ったときは
氷をたくさん出して 頭を冷やせばいい
案外こいつは頼りになる
キュート&秀逸。生活感漂う歌詞ながらものすごくフレッシュな輝きに満ちている曲。
19枚目シングル。『SMAP 008 TACOMAX (1996)収録。
タイトルの示す通り、ニューシネマとは正反対の底抜けの明るさをもった希望的な曲。「時代遅れのオンボロに乗り込んでいるのさ だけど降りられない 転がるように生きて」というように、単にアホ楽観ではなくどうしようもなさを受け入れたうえでそれでも生きていくという力強いエネルギーにあふれている。
SHAKE
23枚目シングル。
電話しようと思ったところにキミが電話くれてテレパシーみたいで嬉しいとか、ポケットティッシュを2個もらったとか、SMAPが日常の小さなよろこびを歌ってシェイッシェイ♬と踊ってくれるだけでこの上ない幸福感と未来への何の根拠もない希望を抱くことができる。最高にハッピーな王道ポップス。エンタメ、ポップスの効能を鮮烈に肌で感じ、SMAPというグループの存在の象徴性を知る。唯一気に入らないポイント:星が流れる擬音がシューシュー。シューシューでは…ないだろ。
セロリ
25枚目シングル。『SMAP 011 ス』(1997)収録。
山崎まさよしの名曲カバー。草彅主演ドラマ『いいひと。』主題歌。恋人同士のすれ違いを率直に歌った歌詞は、素朴で愛らしく、またどこかユーモラスな趣。ああ~明日もがんばんないとな~ってじわ~っといい気分で眠りにつける感じ。特に歌い出しの草彅の不安定で舌足らずな歌唱が、歌詞の不器用で等身大な感じにぴったりで何とも言えない味を出していて良い!また木村はやっぱ似合うな、こういう夏の日差しの中さわやかにポロロンみたいな曲が……。香取と木村?の「毎晩毎晩毎晩毎晩 逢いたい」の切迫感と必死感は非常に愛おしい。5人の個性が乱立しながらも全体としては妙に収まりがいい不思議と調和した空気と、曲のもつ愛嬌や自由な風がベストマッチした奇跡みたいな曲。PVでは木村がつよしにイチャイチャ絡んでくれてるんだけど、なぜかつよしがいっこく堂の人形みたいに”虚”の表情で本当に謎。
バタフライ
『SMAP 011 ス』(1997)収録。
SMAPのSはセクシーのS!安定の森浩美作詞のエロポップス。$10や青イナより明け透けで直接的。紫がかったスモークが充満するような放埓で退廃的なエロス。
曇った瞳 何にも 解き明かさなくてもいい
生きてはゆける
もっとそうぐちゃぐちゃになって
どうでもいいだろう
20歳になったばかりの香取が早熟な色気で場を支配し、深夜の野性と破滅願望・自己破壊衝動を咆哮するかのように歌い上げる。無機質な打ち込み音にサックスが彩りを添えるジャジーな趣もあるかと思えば、間奏のハードロック調のギターソロ、青年らしい軽さと溌剌さを感じる歌唱といったように色々な要素がごちゃ混ぜに入れ込まれている。しかし全体としてはむしろミニマル・シンプルにさえ感じる、不思議な調和がある。
「夜中にドアを叩く名前もない君」→デリヘル?
Hi-Fi
『SMAP 011 ス』(1997)収録。
ああ ヘビのように とぐろ巻いている夜には
冷蔵庫開けて頭つっこんで キャベツになってみたいのさ
初っ端からすばらしすぎ。パチパチ弾ける若さと清潔さと詩的情感がこのワンフレーズに詰まってる。作詞の小霜和也氏がコピーライターだと知りめ~ちゃくちゃ膝を打った。耳に入ってきた瞬間の言葉のパンチはさすが本職といったところ。
毎日は 中途半端だけど
きっと 意味ないことを ずっとして生きるんだもん
ポップでリラックスしたメロディの中に、青年のモラトリアムと倦怠感・無常感をはらんだ名曲。歌詞でいったら一番好きかもしれない。
たいせつ
28枚目シングル。『SMAP 012 VIVA AMIGOS!』(1998)収録。
安定して良質なポップス。一見素朴な印象だが裏でギターが独特の音でビコビコ鳴ってたり(?)女性コーラスが縁の下の力持ちとして大活躍していたり、細かいところまで芸が凝っていて面白味が沢山詰まっている。特にコーラスの「アハ~(アハ~ン) オイエ~(オ~イエ~) you and me…」のところは本当にアゲ。彼女の純朴な感性をしみじみいいなあと思って、そんな彼女と一緒にいる自分を「誰とも似ていたくないずっと前の僕じゃなくてよかったよ」って好きな人を好きだなあと思うことで自分を肯定できる、ってすばらしくうつくしいね。「うかれてた日の僕をせつなく見ていた君だった」の吾郎の歌い方が最高にセクシー。
『La Festa』(1998)収録。
草彅ソロ。独特の打ち込み音から始まり、どんな変態的な曲が来るのかとドキドキしていたら案外王道のキュートなポップス。喉締まってて苦しそう&舌足らずな歌い方があまりにいたいけで、アイドルポップスとしての価値を高めている。つよしのいじらしさが最もよく表れている草なぎ担悶絶の一曲。そんな中「そうねたまにはズルイ」のところとか、ふとした瞬間にものすごい色っぽくてドキッとしますね。(そうですか。)
愛の灯 〜君とメリークリスマス〜
『S map〜SMAP 014』(2000)収録。
堀込高樹作曲、キリンジらしいアーバンで軽やかで技巧的なポップス。独特のうねるような旋律が心地良い。かなりキリンジ色が強くSMAPらしさみたいなものは一切感じられないが(それはそれで新鮮で良い)、そんな中でも埋もれず歌をしっかり自分のものにしている木村は本当にすごい。木村ってSEX & Rock 'n' Roll━━。みたいなシンプルでガツンとしたイメージが強いけど、こういう音数が多くて複雑な曲の方が似合うんじゃないかと思う。優れたクリスマスソングであるとともに木村の歌唱力の高さを再認する一曲でもある。
Part Time Kiss (2001 version)
『pamS』(2001)収録。元は『SMAP 002』(1992)収録で、本作は新録バージョン。
木村&吾郎。王道ポップス。Part Time Kiss, No Time Loveの語感の良さよ。002版は吾郎の舌足らずな歌い方が初々しく(危なっかしく)てそれはそれで良い味が出ているのだが、安定感が増し独自の色が深まった二人のボーカルが素晴らしい!吾郎の細めでなよっとした声と、木村の太筆みたいなしっかりした声の相性がとにかくすごく良い!二人の間で世界観が確立されてる。キムゴロの人の気持ちがわかりました。(学び)
あと、木村の歌って濃厚な色気の中に小さい子に話しかけるみたいなやさしい声色が混じってて、この男って本当に天性のアイドルだし本物の歌手だな…って、泣いた……。
SUMMER GATE
『SMAP 016/MIJ』(2003)収録。
曲が始まった瞬間突き抜けるような夏の陽の白さを錯覚するエネルギッシュな曲。「抱きしめ合うのにシャツはいらない」のハマり具合すごく良い。木村さんの「くたびれた夏はニッポンにゃ似合わない」聞くと毎回うますぎ!?って新鮮に驚く。
Flapper
『SMAP 016/MIJ』(2003)収録。
ラテンの色を感じる、湿度と粘度に富んだねっとり情熱的な曲。サビがちょっと『君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね』っぽい。「遊び馴れたふり」で草彅が珍しくがなっててめちゃくちゃかっこいい。やけに歌謡曲っぽいなと思ったら売野雅勇作詞でびっくりした。
『SMAP 016/MIJ』(2003)収録。
作詞:町田康、作曲:田島貴男という豪華なコラボ。最初の「たてながに消えていく光」からして最高。縦に消えていく光ってどんなの?って思わず立ち止まってしまう言葉の引力がある。それで歌詞カード見ても何一つ分かんないんだけど、みずみずしい詩的情感と鮮烈なエネルギーが乱反射していて溺れてしまう。
もう僕らはひとつの爆発だ、ウソ?
さあ、グラスに、たくさん注がせてね
だだっ広い余白を残した詞は、脳内で情景を紡ぐかと思えばすぐに解けてまたただの言葉の羅列に戻るを繰り返す。この圧倒的に聴者を”突き放す”力こそ詩の本質だと私は感じる。町田康もとい町蔵が自身の作詞法について「説明的、物語的にならないように言葉の論理的なつながりを意識的に排していく」みたいなことを昔テレビで言っていて、それはこの歌詞にも顕著に表れているなと思った。一つの正解はなく、聴者一人ひとりが抽象の中に潜む強烈な"何か"の正体を探り当てようと不安と高揚感を胸に言葉を掘り下げていくという作業は、ものすごく根源的な言葉の力を感じさせる。
ただ、町田のテクスト外に含みを持たせる気迫、批評を誘発するような質感というのは、SMAPの大衆性及び"ノンポリっぽさ"とはあまり相性がよくなかったんじゃないかとも思う。歌詞全てに意味や意図があるとは思ってないが、ちょっと軽すぎるしカラーが合ってない感はある。田島や町田が歌ったバージョンとか聞いてみたい。
あれこれ言ったが、一番の聞きどころは歌い出しの香取。歌手としてのポテンシャルを遺憾なく発揮している。血がさあさあと流れる音が聞こえてくるような、未来への昂ぶりを抑えきれない若く豊かな声。美しいです。
Thousand Nights
『SMAP 016/MIJ』(2003)収録。
吾郎ソロ。『愛は勝つ』のKAN作曲。シルクロードが目に浮かぶエキゾチック歌謡で、吾郎の甘く物憂げな声と抜群に相性が良い。アイドルソロ曲の”正解”を見た。「ジュッというほど本能の炎ゆらゆらゆら燃え上がる~」の「じゅっ」の発音がエロティック。歌詞は吾郎担が書いてる?というほど夢が詰め込まれた真夏の夜の夢……。
37枚目シングル。シャバドゥビドゥビドゥビバカ~ンス
ハマりたての頃何聞いたらわかんなくてこればっか聞いてた。究極にポップで愛らしい曲。歌い出しの木村の「シャワーぶっ壊れ真夜中 クーラーのリモコン握りしめ ぜーぜー言ってた去年の夏」の色鮮やかさ!ビビッドな歌声で一気に引き込まれる。しかし何と言っても最大の魅力は「人類の進化に逆らって」の香取。最高。香取の声って解放的で、切なさをはらんでて、豪快な中にひっそりとした色気があんだよね。夏らしい解放感と刹那の輝きがあの短いワンフレーズに表れていて本当に素晴らしい。あそこだけでもこの曲の価値は保障されてるよ…。つよしの「当たり前だよ前田さん」の素っ頓狂さは、つよしのキャラクターと相まってマジで神の采配。「稲垣って名字の半分は ガキ ガキ ガキ どうせガキなら 迷惑なガキでいい」って稲垣イジリパートを香取さんが歌ってるのも言葉で言い表せない良さが詰まってる。「海パンで 国際線乗っちゃって!」の中居の茶目っ気もさすがといったところ。名曲。
Fine, Peace!
『SAMPLE BANG!』(2005)収録。
木村・草彅・香取。清潔感のあるポップス。ミニマルで淡々とした中にしっかり核があって、推進力ですーっと展開していく感じが心地良い。歌い出しの「100年分の情熱ほど焼けついた想いを」が印象的でガツンと引き込まれる。
木村さんの圧巻の歌い出しからの、つよしソロ!
「頑張って」そういう言葉に 耳を塞ぎたくなり
「今だって十分やってる、だからもう認めてくれよ」と
つよしの柔らかで不安定で今にも崩れそうな歌唱も相まって、何とも言えず切なくなり身悶えしてしまうパート。
クイズの女王
『SAMPLE BANG!』(2005)収録。
香取&吾郎。小西康陽作の最高にキュートなアイドルポップス。螺旋階段を昇降するような音階が爽快。めんどくせー彼女の質問攻撃にうんざりする彼氏をこんなかわいい歌にしちゃって…小西康陽という男、天才━━……。こういう軽やかで甘いフレンチポップスと吾郎は当然のごとく相性抜群。「その答えでよろしいですねえっ!?」って茶目っ気たっぷりに小芝居するのも愛らしい。吾郎と香取という姉弟みたいな二人が歌うというのも神の采配。
ありがとう
40枚目シングル。草彅主演ドラマ『僕の歩く道』主題歌。
タイトルからして何となく敬遠していたが(ひねくれものなので)、いかにも感動曲っぽい雰囲気の中に「もう見たくない母の涙」などパンチの強いフレーズをポンと放り込んでくる、あっけらかんとした気負わない姿勢がSMAPらしくて好きだなあと思う。サビのファルセットは特上品。個人的につよしの「こんな僕でも愛してくれた」でおまえさあーーーーー!!!愛すよ………。って床を殴って悶絶する。
TAKE OFF
『Pop Up! SMAP』(2006)収録。
タイトルの通り、空に抜けるような解放的で自由な空気を纏った曲。つよしと木村による謎のささやきパートがある。
『Pop Up! SMAP』(2006)収録。
技巧的なバンドサウンドが今っぽい(15年前の曲ですが?)。香取の英語詞ラップが映える。つよしの「今頃ベッドの中の君の鼓膜を独り占めしよう」でギャ~~~~……(夢女。)ってなる。つよしは高音でいっぱいいっぱいみたいだが。つよしがこういう直接的な歌詞割り当てられるの珍しい。木村のフェイク?の「愛の言葉」(2回目)の歌い方が好き。
Love loser
『super.modern.artistic.performance』(2008)収録。
キャッチーでポップでエネルギッシュな性を感じる名曲。突き抜ける疾走感とサビの「ガンガン」のとこの腰にくるようなリズムがすばらしい。良質なサウンドに率直な性欲の詞が乗ってるのすげーハッピーで良いと思う。遺伝子の意思という表現がオキニ。「天国?多き煩悩!恋→真顔」とか「神ゴーイングホーム」の何言ってんの?感も秀逸だし、ゴンパとんでもねえ男だな…
Life Walker
『super.modern.artistic.performance』(2008)収録。
吾郎ソロ。小西康陽編曲らしい、浮遊感のあるパステルな感じのポップス。吾郎の甘やかな色が最大限発揮されている。サビの音のハマり具合が気持ち良い。
そっと きゅっと
44枚目シングル。草彅主演ドラマ『任侠ヘルパー』主題歌。
作詞:麻生哲朗、作曲:久保田利伸という外しようのないコラボ。ドラマではヤーさんとしてイカつくガン飛ばしていたとは思えないほどの甘々ロリロリボイス。一番の香取の「そっとキミの手を握りしめる」、二番の吾郎の「そっとキミの瞳を見つめてみる」の美しさ!二人ともすごい透明度。
47枚目シングル。『GIFT of SMAP』(2012)収録。
作詞:麻生哲朗、作曲:菅野よう子のゴールデンコンビ。老若男女に親しまれる「SMAP」像を象徴するかのような曲。白く透けそうな透明感と清涼感、ノスタルジーがそこにあり、矮小な自己から遠く離れたところにあるSMAPというでっけー存在、拡張した概念を思い起こさせる。サビの「涙ふいてさ~」の"掴み"は限りなくソフトでナチュラルでありながら力強くて、菅野よう子の天才的所業、あざやかなり…。
gift
『GIFT of SMAP』(2012)収録。
ポップな中にある切なさ、こわれもの感が何ともSMAPらしい。名曲。歌い出しから隙間を攻めてくようなメロディで始まるのだが、香取と木村ってこういうの本当に似合う。サビのユニゾンとコーラスが絡み合うような構成が美しい。
ビートフルデイ
『Mr.S』(2014)収録。
秀逸なタイトルが印象的な、コミカルで楽しい曲。「適当のてーときーととー」の部分がすごく耳に残る。「楽しんじゃえ今日もヒップだね それ万々歳」→バカすぎ 最高 大好き…エビバデハッピーチューンだね……。
やりたい放題
『Mr.S』(2014)収録。
軽妙洒脱なダンスナンバー。おしゃれなサウンドが嫌味なく耳に入ってくる。「うたた寝の午後だけ 誰か夢においで」など、90年代に回帰するような浮気性で自堕落な歌詞。SMAPきっての自由人、稲垣・草彅コンビが「永遠を誓うには 幼い僕がいる」って歌うのいいな。
ささやかは地味と無下に嫌って
高々知れた幸せに酔って
泡沫美学って勘違いコーデ
遊び人の自虐風味がエッチすぎるよ~~アルバムを通底するダンディズム、それと対照的な人間臭さの自嘲的な提示は、一人の人間の自己矛盾と感傷マゾ的遊びの精神を感じさせる。「間に合わせの温もりだけ 頼むよ凍えそうなんだ」→異常性欲?
一点気になるのは、終わりしなの「やり放」。後ろの歌詞と被っていいから全部歌えや!?略すな…!!!
Mistake!
2013年49枚目。『Battery』との両A面。『Mr.S』(2014)収録。
洗練された大人の色気を纏っていて、同アルバム『Mr.S -SAITEI DE SAIKOU NO OTOKO-』や『やりたい放題』と比べると毒気・遊び気が控えめの落ち着いた仕上がり。サビに至るまでのどかどかした太めの音が好き。サビがキャッチー。自分は浮気しつつも彼女にはずっとそばにいて欲しいと思ってる男の歌。
キスのあとの笑顔の
視線の角度が 指が 口が
何かが違うこと 君は気付いてるかな
が青いイナズマの「君の態度が変わったとキスを避けるしぐさで気づく」のオマージュかな~と思った。
シャレオツ
51枚目シングル。草彅主演ドラマ『独身貴族』主題歌。
草彅剛が一番かっこいい曲ですわ!!?(草彅担お嬢様?) 異常独身男性が孤独に泣きながら、なおも"俺って元々めんどくさいの嫌いだしワンナイトの方が気楽だし~"って強がる歌。この痛々しさ、そして中々死にそうにないしぶとさが何とも愛おしい。いつまでたっても手頃な幸せに安住しないで毎回同じように傷つくのを繰り返す危なっかしさと隙みたいなところがこの主人公の色男たる所以なんでしょうね。
華麗なる逆襲
54枚目シングル。『ユーモアしちゃうよ』と両A面。
椎名林檎提供。20年にわたるアイドル活動を通して熟成された渋味と芳醇な色気を華麗に演出した至高の一品。90年代に象徴的だった"刹那のきらめき"から脱し、まさに円熟と言うべき貫禄と調和を為した本作品は、アイドルのフロンティアを切り拓く存在としてのプライド・風格、および豪胆さを感じさせる。
草彅主演ドラマ『銭の戦争』主題歌でもある。つよしって「なんでこんなことになっちゃったんだろう…」みたいな状況に頻繁に陥るけど主題歌はメチャクチャ良いのかっさらっていくよな。そういうところ、いいと思います。剛運の剛だよ。ありがとう。
ユーモアしちゃうよ
54枚目シングル。『華麗なる逆襲』と両A面。
明朗快活な王道のポップス!つよしが甘々ロリポップちゃんの声してる。木村はいい渋味が出てるんだけど同時にすごく愛嬌もあってかわいくて、曲を一気に華やかにしてる。吾郎は相変わらずの年齢不詳感。階段をパタパタ昇降するような旋律が好き。テーマパークのような完璧に構築されたエンタメの世界で夢心地になれる。
愛が止まるまでは
55枚目シングル。『Otherside』と両A面。
川谷絵音提供。抜け感のあるボーカルや音数が多くて技巧的なピアノサウンドがテン年代らしい。イントロの疾走感、大サビに向かって爆走していく絶頂感が心地良い。草彅は年取るごとにどんどん声が若くなっていくからこういうボカロっぽい音が意外と似合っている。
ダンス(30曲)
NJS、EDM、ヒップホップ、テクノなど。
Subway Kids
『SMAP 001』(1992)収録。
これがファーストアルバムに入ってるのびっくりした。バリバリのヒップホップで、001で一番かっこいい曲。舌足らずなラップがかわいいね。幼く拙い歌唱だが、ギャング(チンピラ?)の退廃的で破壊的な日々を歌った歌。
陽の目見ない夢が果てる 破裂した若い怒り
弾く場所をきっと間違えているのさ
愚かさを自覚しつつもうまく生きられない若者の苦悩。軽快な曲調に反して「どこへ行けばいい 二度と繰り返したくはない」で終わるという、結構陰鬱な歌詞。
Angelの秘密
『SMAP 001』(1992)収録。
森ソロ。ファーストアルバムから一人だけソロ曲を与えられた森且行という男……期待値の高さが伺える。NJSやR&Bの要素を取り入れ、デビューしたての溌剌としたエネルギーを感じさせるアイドルポップス。初々しく一生懸命に歌う姿が目に浮かんでまなじりがゆるゆるになるが、肝心の歌詞内容はクラスの女の子が実はきわどいグラビアをやっていると知ってドキドキする、という虚無。
Living in the Jungle
『SMAP 002』(1992)収録。
前曲の「心の鏡」「Adieu」の昭和アイドルポップスからは一線を画したブラックな曲調で、モロNJS。ストリートでしぶとく生きるといった歌詞も含め、当時のSMAPの貪欲さと野心をビンビン感じる意欲的な作品。
Fade Out
『SMAP 002』(1992)収録。
『Boo』収録のメドレー版も最高だが、やはり原曲からして最高。SMAPのNJS曲で最も洗練された曲。ビャンビャン鳴る荒いシンセ音がハードで心地良い。
傷ついて 嘆いても 廻り続ける
僕が今 消えていっても
愛すべきさ 守るべきさ 高い方から 叫ぶけど
本当は 君なしじゃ 一日も やってゆけない
この悲痛なキリキリ舞い感がすばらしい。SMAPってフラれたり浮気なカノジョに振り回されて一人で喘いでる曲が超絶似合うよな。そして木村の「どうしたら許される?愛されて 生きてゆきたい」の破壊力、凄まじい…。
Scarface Groove
『SMAP 003』(1993)収録。
体の奥をガツンと揺するようなパワフルなダンスミュージック。野性みとグルーヴの"重さ"でいったらSMAPの曲全体を通しても番張れるレベル(何の番付?) 中居のリズム感と遊びのセンスの良さがラップで活きている。こんなかっこいいのにアルバムの次の曲「テルテル坊主テル坊主 いますぐ天気にしておくれ☆」なの本当にカオス。
二人のLove Train
『SMAP 003』(1993)収録。
ポーラアブドゥルとかペブルス、マルティカが一世を風靡した80年代後半ポップスの影響をモロに感じる。明朗快活な音調と力強い拍感が、まだ幼さの残るSMAP歌唱とかけ合わさって何とも言えないノスタルジーが醸成されている。
『SMAP 004』(1993)収録。
ポケットに今日の日の痛みをねじ込む
いつまでこんなふうにして暮らしてゆけるのか
不安なくらい 僕たちはいまを生きている
未来への漠然とした不安を抱え、悩み傷つきながら今を生きる若者の歌。
ポケットで歯ブラシと若さがあばれる
有り余るエネルギーと抑えきれない衝動を、歯ブラシという奇異なモチーフを用いて絶妙な爽快感とともに表出した見事なフレーズ。ステキなものをかき集めて生きてたい、本当にね…
5月の風を抱きしめて
『SMAP 004』(1993)収録。
草彅ソロ。ラップを取り入れたNJS。ダンサブルでかなり荒めの質感。入りの一瞬のローファイっぽい音がプリンスっぽくてかっこいい。つよしはしっかり声出てるし、普通にかっこよくてびっくりする。変声期なのかハスキーでちょっと低め。おしゃれで背伸びしたかっこいい男の子だよ…。ゴガ♬ツノ♬
愛ラブSMAPで他4人のおふざけでPV作られてたのマジで萌えるな。髪型は古いんだけど、顔は仕上がってかっこいいしダンスとかキレに切れててかっこいい~
忘れないでよ
『君色思い』(1994)のc/w。
ボビーブラウン!NJS!って感じ。荒さとパンチとポップさがあっていいですね。カンコンカンコン♪みたいなエフェクトがハッピーで好き。
ほら もう秒読みで夏が翳りだす
時間を抱きしめたくなるよ
眠らず生きれたらもっと楽しめるのに くやしいね
この美しい詩を歌い上げる美しい男の子たち、世界が完成されすぎてすごいな……。
『SMAP 005』(1994)収録。
銀河系で一番すばらしいダンスミュージック。わたしが初めて見たSMAPのライブDVDはバードマンなんですが、そこでこれを聞いた時の衝撃はもう…爆風みたいなもんだった。サビ以外は全て中居ソロだが、音数が少なく音域も狭いためか歌いやすそうだし、電子音との相性も良く、さらっとしたボーカルがいい味出してる。「燃えないゴミを 明日は出す日で」というフレーズが印象的。
若さを ひとつ失くす度
何かが 確かになっていく
若者が大人になっていく過程で小さな幸せや孤独の楽しみ方を見つける歌だが、途中で「明日からが口癖の仲間が増える」とグサッと刺してくる。曲調からは想像もつかない哀愁漂う歌詞。
『SMAP 005』(1994)収録。
めえ~~ちゃくちゃカッコいいブラックなダンスミュージック。005では「失くしたり見つけたりのEvery Day」と並んでトップクラスにかっこいい曲。あっちがダンスの高揚感で何も考えられなくさせるようなトリップ曲だったら、こっちは終始センチメンタルな雰囲気に包まれたしっとりダウナーな曲。別れる寸前のカップルが、初めて二人で訪れた場所へフェリーに乗って行くという内容。
そして最後の場所になる
二人は春へ渡れないから
津軽海峡・冬景色か?
「僕から消えていく 気持ちが消えていく 吐息のように薄れてく」の喘ぎ悶えるような情感といい、下へ下へ沈んでいくようなグルーヴと感傷が全体を支配していて本当にすばらしい。
M・A・S・H
『SMAP 006〜SEXY SIX〜」(1994)収録。
ヒップホップパゥワ~…という出だしの通りヒップホップ色が強く、全編打ち込みで都会的でドライな印象。マッシュといえば映画マッシュぐらいしか思いつかないけど、このタイトルがどういう意味なのかは不明。そして何よりもサビ前の森ゴロが凄まじい。
僕 セリフが下手だね
君に気持ちが届かない
森ゴロってフラれ曲が異常に似合うデュオだな。声の重なりが美しい。
「4wdに乗り込み〜」のとこ、94-95の写真集でつよしも将来の夢として挙げてて、SMAPの曲好きだね~!うい奴め…となった。最初にヒヒーヒヒヒィってちいちゃいモンスターの笑い声みたいエフェクトが入ってるのは個人的に唯一気に入らないポイント。
Let's go to 週末ヘヴン
『しようよ』(1995)のc/w。
ハロプロみたいなタイトルの重めのR&B。とことん「当時のアメリカのアイドルサウンド」をそのまま直輸入した感じで、制作側のひとつのこだわりを感じる。香取のラップ、さらっとやってのけてるけどリズム感すばらしいな!?
A Day in the Life
『SMAP 007〜Gold Singer〜』(1995)収録。
いいことをしたいけどなんだかんだ理由付けて何もしないでいる自分自身にモヤモヤする日々を淡々歌い上げるヒップホップ。「それが痛みでも」にも通ずる精神。そのシンプルでドライなラップ・歌唱が、不器用な若者像をリアルに映し出すようで鮮烈。出だしのつよしのラップ、まじかわいー…。ちょっと低くてハスキーで、若者らしい声してる。しかしラップではなくほぼ音読。
駅前の募金を黙って通り過ぎたら
何だか急に落ち込んだ
自己形成真っ只中の鋭敏でナイーブな感性が愛おしい。でもしっかり「急ぎの用事があって」と注釈を入れてるあたりの幼稚さを感じる。サビの「眠ったら起きて食べたら動いて疲れたら休む普通の生活です」というフレーズは、社会にもまれる中でそういう繊細すぎる感性から諦観へと徐々に移り変わっていくのを予感させる。
夕方の TVのニュースでつらい話が画面に映って
何か自分にできることをしなくちゃいけないって自問自答
すぐにもそこに駆けつけたいけど
そんなに仕事を休めるわけない
ソファの上で寝転んだ自分がなんだかくやしい
悩み、葛藤し、言い訳し、そんな自分を嫌悪する。シンプルでストレートな詩が響く名曲。
GANTAN Sound Machine
『BOO』(1995)収録。
世界で一番かっこいいリミックスメドレー!
シェリル・リンの”Got To Be Real”→ エモーションズの”Best Of My Love”
→働く人々→ポケットに青春のFUN FUN FUN
→Whycliffe の”Shake It”→Was (Not Was)の”Walk The Dinasaur”
という構成で、70年代~80年代のソウル/ファンク/ディスコの名曲とSMAP曲を組み合わせてひとつの美学に沿って様々な趣向を凝らしたすばらしいアレンジ。”Walk The Dinasaur”には新たな日本語詞を加えるなど、かなり意欲的な作品。
まったくもう
『胸さわぎを頼むよ』(1996)のc/w。
ロック風味の強いブラックな曲。ギターがヘヴィでスパイス効いてる。
かけひきは 恋愛の重要なポイントで
美しいお姉さまの入れ知恵ばかりきく君
たまにはさぁ 全力だしたらー? ねぇ
出だしからエッチすぎ。年下の放埓なヒモ彼氏の像が想起される。「キュンとしてるとかわいいのに」←お前がな… 森の「お姉さま」呼びが聞ける至高の一品。森リアコのお姉さま方、やばかっただろうな…。
『はだかの王様 〜シブトクつよく〜』(1996)のc/w。
001~003あたりのダンスポップ路線に回帰したような元気のいい音。ギターのカッティングが気持ちいい。歌詞は日常の些細なイライラ集(「気になる」と同種)。
どうせ焦ったって
この世は同じ1日
Ah 深呼吸でもして
急がず回ろう くさらず
がんばりましょう的な、社会に出始めた若者の倦怠感やその先のカラッとした諦めを歌った歌。励ましソングではあるけど励ましの"圧"がなくて、だるくてまじでどうしようもないよなハハハ~みたいな雑然とした大らかさとしょっぱさがいい!「気になる」は曲調だけ聞いたらもっと気取った感じなんで、しょっぱさで言えばこっちのが上(何の比較?)。
Slicker’s Blues
『SMAP 008 TACOMAX』(1996)収録。
6人それぞれのソロパートがあるヒップホップ調の曲。「A Day in the Life」と同じような世界観。ストリートな質感が一番色濃く表れてるのが草彅パート。草彅…輝いてます!パンク少年ぽい鋭さ・幼さ・背伸び感と、ハスキーな声質がくすぐったくなるぐらいかわいい。森の優等生っぽい声や吾郎のちょけも良いアクセント。
勢いだけで乗り切ったら
後はもう休みながら
落ち着いて あわてよう
ダルいこと続きの日常を気だるげに歌っている、哀愁漂うまさにブルース。
おばちゃん上司にセクハラされて
ひとりユラユラ電車に揺れて
ひとり暮らしのワンルームマンション
またまた寂しい Slicker's Blues
かわいそすぎる泣 下二人はこういうの歌うの似合うよね、苦労人だから…。
Harlem River Drive
『SMAP 009』(1996)収録。
草彅ソロ。重めでストリート感マシマシのヒップホップ。ラップ部分はちょいドスの効いたハスキーな低い声で、草彅史上最もかっこいい。信じられないぐらいかっこいい。サビに入ると一気に普通の王道ポップスになるのが不思議。
Trouble
『SMAP 012 VIVA AMIGOS!』(1998)収録。
草彅&香取(ほぼ草彅ソロ)。全編打ち込み音だがなんとも心地良いやわらかな波にたゆたってるような感覚になる。普段歌唱メンとは言えない草彅だが、この曲は異様に上手い。「ダウンタウンのハコ番DJ~最低の空気に満ちたブロック」のあたりとか飛び抜けて上手い。草彅がこういう…クラブでのアダルトな恋愛模様を歌うの、カーーーーー////////…ってこっちが照れるな…。
living large
『BIRDMAN〜SMAP 013』(1999)収録。
m-floプロデュース。ブラックなダンスミュージック。ジャミロクワイ的アーバンなSF感、でちょっとエスニックな要素も含まれてる、多国籍で不思議な浮遊感のある曲。木村が信じられないぐらいハマってる。いやでも耳に入ってくるな、木村の声…上手すぎるから…。そして「もうこの作風でわかるはず~」以降の香取のラップは本当にすごくて、特に一番盛り上がるとこなんかうめっ……!?としか言葉が出ない。ひとつの完成形を見た。
あと「上り詰めた世界から~」の吾郎の声がすごい良いアクセントで、曲全体が一気に締まってビビッドになってる。ももクロにおける佐々木彩夏やモーニングにおける道重さゆみみたいな、アイドルサウンドにおける異化にも似た役割を担うのはSMAPの場合吾郎なんだなと感じた。
Five True Love
『BIRDMAN〜SMAP 013』(1999)収録。
メンバー紹介ソング第一弾。だが内輪ウケにとどまらないバチバチのダンスミュージックで普通にファン以外が聞いてもかっこいいと思う。TV版のBPMをかなり上げたアレンジはもっとかっこよくて、というかあっちのバージョンを収録すべき。最高傑作。
「つよポンのほホンジーパン博士DA ワン・ツーツヨシ!」でダサすぎる泣泣ってなるんだけど、その後の間奏(つよしパートに移行するインターバル)がインネパ風?エスニックな音になってるのが解釈一致すぎてボエーーーーーOKです…ってなった。
吾郎紹介の「表現隠し現す正体 フォーマットなしの半導体 感じる伝導だけShow time」がすごいポエティックで素敵だし中居をミクロなヤンキー、ボスザルって言ってるのもすげーしっくりくる表現だ…と作詞の香取さんのワードセンスを再確認する。メンバー紹介ソング3曲のうち紹介文が最も的を射ててセンスいいなあと思う曲。
Smac
33枚目シングル。
過去のヒット曲をサンプリングしたり歌詞をツギハギしたりとゴツゴツ異物感のあるメドレー曲。なんでシングルになった?とは思うが普通にリミックスとして好き。一貫したグルーヴ感が雑多な印象をボトムの部分で締めてる。PVは謎の外国人5人のTシャツにど根性ガエルみたいにメンバーの顔写真がプリントされており、曲に合わせて口が動くという内容で、カオスで好き。キュートでポップでトロピカルな時代の空気が表れてて個人的に一番刺さる。「最後にはやっぱ愛」がハロプロっぽくて良い。
It Can’t Be
『SMAP 015/Drink! Smap!』(2002)収録。
香取ソロ。全編英語詞のEDM。打ち込みの硬質なサウンドが解放の気分を秘めた歯切れのいい発声に似合うんだよな~
『SMAP 015/Drink! Smap!』(2002)収録。
メンバー紹介ソング第二弾。だけど内輪ウケにとどまらないバチバチのダンスミュージックで普通にかっこいい(リフレイン)。中居は珍しく気合の入ったハードな声でシブい。冒頭の「エロエロボディ!」が最高到達点。次のメンバーに移行するときの間奏が、木村はダンサブルなロック、つよしがちょっとエスニックな要素あり、吾郎がジャズ調、香取がヒップホップ、中居はアッパーでブレイクっぽい、とメンバーに合わせて系統が変わってくのも面白味があっていいな。
Everybody
『Pop Up! SMAP』(2006)。
香取×くぅちゃん。香取ラップ死ぬほどうめーーー!!うめっ!!!香取の至高のラップを堪能する曲。「Ya know ya gotta go ya know ya gotta go get down yeah day by day.」のとことかハマり具合が気持ち良すぎて絶頂する。もはやテレビの慎吾ちゃんではない、香取の歌手としてのポテンシャルが最大限発揮された至極の一品。とにかく極まってる。ヒップホップのボトムに響く音とくぅちゃんのハスキーで艶っぽい声がものすごく相性が良いことも再確認。ちな俺がくぅちゃんを好きになったのは、剛がくうちゃんのPVを全力でコピーする女装コント「カメレオン剛」きっかけです。
宮下がつくったうた
『super.modern.artistic.performance』(2008)収録。
ヒップホップ。中居が喉枯らすようなハスキーなシブイ声でラップしててかっこいい!中居曲にしては比較的おふざけが少ない曲。口で屁をするが…この男、ソロ曲に絶対屁の音を入れないと気が済まないのか?
Here Is Your Hit
『super.modern.artistic.performance』(2008)収録。
The Black Eyed Peasのwill.i.amプロデュース。香取曲で最もかっこいいEDM。香取はリズム感がいいのか耳がいいのか英語詞と相性が良く、一音一音がいちいちハマってて心地いい。少しザラつきを織り交ぜた発声がセクシーでハロウィンっぽい妖しげな魅力のある曲調に合ってる。
『We are SMAP!』(2010)収録。
作曲:石野卓球、編曲:CMJK。電気グルーヴ独特のバリバリテクノにはぐれものっぽい笑いが付与されたポップでコミカルで電子な世界観で、SMAPが意外にも相性よくてびっくりした。特に吾郎がこの曲歌ってんのが本当に面白い。どんな気持ちで歌ってたんだろ…。中居・香取は当然のごとくぴったり世界観にハマってて、「ポジティブ!」「ネガティブ!」って瀧みたいな合いの手入れられてるのが死ぬほど似合ってる。
Battery
49枚目シングル。『Mistake!』との両A面。
全編英語詞のEDM。香取と英語詞の組み合わせは相変わらず絶妙。個人的にリアルタイムで聞いてたSMAP曲はこれが唯一なので、すごく印象深いです。
ブラック(30曲)
この街で今も君は
『俺たちに明日はある』(1995)のc/w。
洒落たR&B。隠れた名曲…隠れんな!ダンチでB面の方がかっこいいと思う。特にんべんべ聞こえるベースが最高。今は別の男と暮らす元カノの家をこっそり見に行く未練たらたらでどうしようもなくかわいそうでかわいい男の歌。SMAPくんて本当にフラれソングが似合うね。刺激される、感傷マゾの心が…。
笑顔でお帰りと迎えて欲しいなんてさ
思ったわけじゃない
僕が好きな長い髪も 今は切って
笑顔でおかえり言うてほしかったんだろーが!!自分に嘘…つくなッッ!!その夢追えボケッ!!!(ギュ…)ってなる。
働く人々
『SMAP 006〜SEXY SIX〜』(1994)収録。
野音の帰りに夜遅くまで仕事している人の姿を見て、仕事や社会の厳しさを改めて実感する若者の歌。さわやかでおしゃれな勤労奨励ソング。
自分のために働こう それが人の美しい道だ
愛するために働こう ちょっときつくても
誰かのために働こう せめて君を幸せにしたい
こういう歯の浮くようなことを言っても全く嫌味やねちっこさを感じさせない奇跡のバランス。言外にそういうこと言ってる自分を鼻で笑うような含みがあるというか…。単なるリアリズムではない、SMAP自身の演者としての俯瞰的な意識や現実に即した肌感覚、またその「クサさ」を楽しんで演じる遊びの精神がこのバランスを保っていると思う。
そして宗教勧誘で「あなたのため祈らせて」と声を掛けられて思わず迷惑そうな顔しちゃったことに後味の悪さを感じてるという部分、誰もが経験ある事かもしれないけど詩として形にできる鋭敏な感性すばらしいなと感動した。疲れ切った帰路で聞きたい曲。日常的な気づきや感覚を歌った詞で軽妙な印象だが、非常にグルーヴィーで活力みなぎる重ためのファンクサウンド。
それが痛みでも
『SMAP 006〜SEXY SIX〜』(1994)収録。
木村&森。半裸極小短パンというストリップショーのごとき衣装で歌い踊る美青年二人の果てしない輝き。曲調と衣装のイメージからエッチな歌かと思いきや、生き様について真面目に苦悩する若者の歌。
死なないくらいは悩みたい
にぶくなりたくない
まいにちなんかを感じたい
それが痛みでも
このフレーズの鮮烈さよ!トップアイドル二人がこういう観念に身を焼き悶えるような歌を歌ってくれてうれしい。絶対にうすらぼんやり生きていたくない、ダサい生き方するくらいだったら死ぬ、みたいな若者の潔癖さ、苛烈さが愛おしい。大好きな曲です。
ルーズなMorning
『SMAP 007〜Gold Singer〜』(1995)収録。
森&香取。ギターカッティングが印象的なフュージョンナンバー。香取の伸びやかな声はショタ性の影に切ない色気があって、その潜在的なセンチメンタルな響きと、森のパーっとした華やかさ・青年の大胆な色気が組み合わさって、も~~とんでもない。良すぎ。あと「夏は容赦なしに~」のメロディ、すばらしすぎていつもあそこでギィ~~って鳴いてしまう。
雨がやまない
『SMAP 007〜Gold Singer〜』(1995)収録。
木村&森。歌唱力トップ2による都会的なフラれソング。失恋と雨の湿度が、ジャジーでな音に色艶をもたせてなまめかしく輝いてる。森の少年っぽい透き通る声と木村の低めで色っぽいうねりのある声が妙絶のハーモニーを形成。基本的に森がリードで木村が追っかけるのが声質的に合ってるな。森の真面目で一直線な中にあるかわいさやエロスが最大限発揮されている名曲。
感じやすい不機嫌
『SMAP 007〜Gold Singer〜』(1995)収録。
木村・草彅・香取。ジャジーなポップス。作詞は戸沢暢美で安定の天才っぷり。とにかく歌詞が良い!
大事にして 大事にしないと
街で 部屋で あばれ出しちゃいそう
女の子がにくたらしいのは
感じやすい夢を見るから
女の子の心情歌った歌詞でトップクラスにかわいい!何となく大槻ケンヂの書くロリータ少女みを感じる。「恋はカレシをいじめながら」とか、木村が女性目線のうた歌うと最高にエッチ。間奏部分は木村の趣味かギターぎゅぎゅぎゅいんみたいなロック風味。
人知れずバトル
『SMAP 007〜Gold Singer〜』(1995)収録。
木村&森。木村と森のデュオっていい曲多いな…エース二人だもんな…。真面目でまっすぐでかっこつけな男が、なあなあでうまくいってる奴らを横目に、内なる自己を奮い立たせる様を描く。克己心、自己研鑽というアツすぎるテーマをさらっと・おしゃれに歌い上げた奇跡の曲。森の「肩のちから抜けと敵に言われムッとして肩がこる」は森自身の真面目なキャラクターと相まってすごくストレートに耳に入ってくる。木村拓哉&森且行という当時のトップアイドル、ギラギラして王様みたいに美しい男のテッペンがこういう自分の中の葛藤や焦り、苛立ちにまっすぐ向き合って泥臭くもがく歌を歌うのが非常にかわいらしくて愛しいんすよね…。「恋人だって踏み込めない場所 激しくて おもしろいぜ」という70年代少年漫画を想起させるような硬派さが、すてきね…。曲調は歌詞に似合わずおしゃれなR&Bです。
胸さわぎを頼むよ
20枚目シングル。『SMAP 008 TACOMAX』(1996)収録。
華やかで瀟洒なイメージと軸のぶれないグルーヴ感を併せ持ったリッチな仕上がりのR&B。名曲。全体的にあたたかい風がゆったりと流れるような幸福を感じさせながらも、同時にどこかクールで都会的な印象を抱くのは、洗練の極致とも言うべきサウンドの為すところが大きい。彼女に振り回されてでれでれしている男の甘々ラブソング。言葉ひとつひとつが甘やかでかわいらしい。個人的につよしを見つめるモブおじさん視点で解釈して、勝手に悶えています。「なんか かなわない じたばたしてる 不器用」←つよしじゃん 謎だらけでせつないね……。
気になる
『SMAP 008 TACOMAX』(1996)収録。
推進力のあるファンクで、特にうにょんうにょん鳴るベースがすばらしい!録画失敗したビデオにしろ別れた彼女にしろ、逃したものがずーっと気になってしまう諦めの悪い小市民的な男の歌。日常の些細な感覚を大事に拾ってる感じが好ましい。毎日くり返す日常の中の出来事のひとつとして、しょーもないけど結構ムカつく「あるある」と失恋を並列して描いてるのがかわいい。
わかってほしい
『SMAP 008 TACOMAX』(1996)収録。
愛ってお金じゃ買えないというけど、まあタダより高いもんってないですゎな!ガハハ!というカツカツな男の悲哀。それくらいわかってほしいよ~…と心の中で嘆くだけで彼女に強く出れない、ねぎらってももらえない、ただひたすら金が消えていく男…。
本当はして欲しいよ
支払いも 立て替えも 時々でいい
かわいそうでかわいい泣
ちな『SMAPPIES – Rhythmsticks』のインストカバーでのタイトルが”Muchacha Bonita”なの謎。ムチャチャボニ~タ…。(余談ですが同アルバムの『ギョーカイ地獄いちどはおいで』カバーの英題が”I Wish You'll be Happy”なのいかすよね)
お茶でもどうかな?
『SMAP 008 TACOMAX』(1996)収録。
森ソロ。至高のフュージョン。別れた彼女とヨリを戻したい必死な感じの男の歌なのが、森がクールな見た目に反してしゃべると割とわちゃわちゃしてるのと重なって萌える。森のキリキリ舞い感はこういうスタイリッシュでグルーヴィーな失恋ソングでこそ映える。森は水のように澄んでまっすぐな声質で、聞いてて歌が好きな人の発声だな~というのが伝わってきて気持ちいい。
Relax
『SMAP 009』(1996)収録。
ホーンが際立つさわやかなR&B。完璧に構築されたジャジーなサウンドに若SMAPの青々しい声が乗っかると、果てしない幸福感が増長する。
マラソン
『SMAP 009』(1996)収録。
SMAP屈指の名曲。空に突き抜けていくような透明感と躍動感、解放感。自然と体が動くグルーヴ。SMAPという集団の纏う自由と解放の気分と清涼感をぎゅっとつめこんで極限までナチュラルに仕上げた最高のR&B。サビのファルセットが切ない。
波風も悪くない
『SMAP 009』(1996)収録。
恋愛における気持ちのゆらぐ周期を波風と表し、サーフィンに例えながら恋愛の自由な気分をグルーヴィーに歌い上げる。さわやかなファルセットがまた海に似合う。「むやみにとがる情緒」ってフレーズが好き。
電話しようかな
『SMAP 009』(1996)収録。
木村ソロ。風邪でダウンしたとき彼女と電話することでちょっと孤独が癒される、という素朴な歌。電話つくってくれた人ありがと~なんて言っちゃったり、かわいい男だねえ!!!天下のキムタクがこういう小市民的な幸せを歌っても、限りなくリアルで彼の人間性や愛らしさが伝わってくるっていうのは奇異なもんよなあ…
君を抱きしめたい
『SMAP 009』(1996)収録。
珠玉の名曲。しっとりとした良質なR&Bサウンドにどストレートな歌詞という、あまりに曲全体の純度が高くて聞くとポケ~っとしてしまう。サビに歌謡っぽさもあり。
夏が来る
『SMAP 009』(1996)収録。
香取ソロ。19歳の香取の拙い歌唱が初々しく、そんなボーカルを置いて行く躍動感のあるキレキレのバンドサウンド。必死に食らいつこうとする香取さんが愛おしいです。まだまだ声が完成されてない感じが青々としてて魅力的。
まぁいいか
『セロリ』(1997)のc/w。
自然に体が動いてしまうようなダンサブルなR&B。ギターが重めでかっこいい。カノジョがデンワちょうだい♡って言うから掛けたら見たいドラマがあるってすぐ切られた、から始まり
テレビに負けちゃうオレって一体何だ?
そんなのビデオに録りゃ済むんじゃないの?
って天下の木村に歌わせるの、可笑しみがあってキュートでいいな~
君って恋愛したい人じゃないの?
少しはもっとちゃんとね向かい合おう
「○○なヒト」というこまっしゃくれた若者のリアルな言葉遣いに、相手が聞いちゃあいないけど言い聞かせるような投げやり感、ため息が聞こえるような呆れ感が表れててすばらしい。
Everything is Cool
『SMAP 011 ス』(1997)収録。
ナイル・ロジャース作曲。006までの20歳前後の悶々とした空気を脱した、毒の抜けた大人っぽいさわやかさを感じるポップス。躍動感あふれるきらめき。サビの「街角でウワサになろうよ Someday~」からお気楽ソングかと思いきや
今日はとれかかったシャツのボタンつけ直したよ
おもしろ 楽しい
それだけじゃ 自分磨けない
「おもしろ楽しい」からの落差すご。冷静になるのが素早くていいと思います。
サビの「ウワサになろうよ」とは決して恋愛の誘い文句ではなく、才能を世に知らしめるとか自己研鑽などの自分を高めることを歌っていて、音のイメージからは想像もつかない情熱的でアツい男の歌。
愛がないと疲れる
『SMAP 011 ス』(1997)収録。
草彅ソロ。つよしが頑張る歌。音はめちゃくちゃかっこいいR&Bだが、つよしののど・鼻が詰まりに詰まって苦しそうで、全体としてはなんともアンバランスでキュンとする。成人男性が苦しそうに頑張って歌う姿、かわいー…泣 変声期の10代みたいな声。つよしはお気楽ソングもいいんだけど、こういう…疲労感とさめざめした気持ちを抱えたちょっと情けない感じの曲歌うと、すごく輝いてるよ…。
愛がないと すごく疲れるよ
何度も 夜に 夜に 夜にめざめて
成人男性がこういう日常の疲れを吐露してうだうだしてる歌、すごいキュートだな。特に「夜に 夜に 夜にめざめて」と言葉を反復するとこ、眠れない夜の思わず子供返りしてしまうような苦痛な叫びに思えて、いたいけでかわいい。
Peace!
26枚目シングル。『SMAP 012 VIVA AMIGOS!』(1998)収録。
一分の隙も無い完璧で豪華なファンクサウンド。この上にSMAPの青年らしい声質が加わると、なんともいえない抜け感を帯びてとてつもなく軽妙洒脱。すごい天上人の集まりなのに、こういう何気ない日常の素晴らしさとか語っちゃってもうすら寒くならないのは奇跡。SMAPって、一人ひとりが破壊的にかっこよくて浮世離れしてるけど5人集まると近所の兄ちゃんみたいな、限りなくナチュラルでよくわかんねーけど面白くて好感の持てる存在、っていう奇跡みたいなグループなんだよな。
Possession Possession
『SMAP 012 VIVA AMIGOS!』(1998)収録。
ベースの推進力がよく効いたダンサブルなファンク。キャッチーなチョッカクサウンドに切ないきらめきと短編小説のような抒情性をのせた大傑作。
「ここで止めて」と口を開いた
そこは樹海の真ん中
君の顔にずっとはりついていた笑顔はとうに消えてた
「樹海」というハッとするワードから、緊張感漂う男女の駆け引きの鮮明な視覚イメージが想起される。
ほぼ木村と吾郎のデュオ。木村のエネルギッシュな声と吾郎の誘惑的で隙のある声の掛け合いが、なんだかセンシュアル。
言えばよかった
『SMAP 012 VIVA AMIGOS!』(1998)収録。
んべんべ鳴ってるベースや切れ味の良いギターのカッティングがアクセントの重厚でクールなファンク。「言えなかった」「言えばよかった」とリフレインする未練たらたらソング。男のかっこわるい部分、モジモジしてもどかしい恋心を歌うのが上手いな、SMAPは…かっこわるさをまざまざと曝け出すことができるのはかっこいい。
そして大サビでの中居が信じられないぐらい声枯れてて、純粋にびっくりする。別にふざけてるような感じでもなくて、本当になんでこうなっちゃったの?と意識がすべてもってかれる。洗練されたサウンドにこういうびっくり箱みたいな仕掛けがあるのはまたそれで味があるなとは思います。しかしただただ謎。
NATSU 〜夏〜
『BIRDMAN〜SMAP 013』(1999)収録。
アコースティックギターをかき鳴らす西海岸っぽいポップス。木村の歌唱力の高さをしみじみと感じられる名曲。
どんどん暴走する あなたを見て
ハァだめだわこれはと何度も迷ったりもした
何も見えなくても 何でもよかったけど
どうなのかしら これでよかったかな
木村が女性目線、しかも彼氏にあきれてる現実的な感じの女性の歌を歌うのすごいドキッとするな。木村っていつもバストウェストヒップ!みたいな歌うたうから…。その後の「すごく苦しい事が あった時は」の旋律すごく好き、微妙な音を攻めていくのが似合う!
Let It Be
31枚目シングル。『S map〜SMAP 014』(2000)収録。
きらめく疾走感と重厚な音質、グルーヴ感が一秒で天国に連れてってくれる、SMAPブラック路線の最高峰に位置する楽曲。何よりも「好きな映画や好きな音楽とかに影響されすぎて 今を見失うなよ」の香取の解放感!!!香取の躍進力ともいうべき伸びの良さ、発散のエネルギー、それに伴う切なさと色気。言葉では言い表せないほどすばらしい。
つよしパートの「いざという時に力を出せないでさインパクトがコンパクトにまとまってるんだ」で木村だか香取に「自分のことじゃん」って言われてほんとだ~😄って鷹揚に返した話めちゃくちゃ好き。ハッピーな男なのよ、つよしゎ…
ジャケットはフリーの背景画像みたいで謎。
Style
『super.modern.artistic.performance』(2008)収録。
久保田利伸作曲の超良質なR&B。木村ソロで一番かっこいい曲。SMAPは90年代に優れたR&B曲をいっぱい出してたけど、これが最高到達点だなとさえ感じる。木村のボーカルの力が最大限発揮されている、本当に素晴らしい珠玉の作品。木村の独特のクセがあるねちっこくてよく通る声は哀愁と情感たっぷりのブラックな質感に合ってるんだよな~と再認した。「ガマンは正義じゃない 気付けよ」のところマジで最高で、泣いた…。
SWING
『We are SMAP!』(2010)収録。
タイトルの通りスウィング。ベニー・グッドマンのシング・シング・シングの引用から始まる、華やかで洗練されたサウンド。30代後半になったSMAPの「脂ののった洗練」というか、熟練の一歩手前の静かに漂うエネルギーと余裕、色気がある。
僕の素晴らしい人生
『We are SMAP!』(2010)収録。
中居・木村・稲垣のお兄ちゃんズ。打ち込みの無機質なサウンドがアダルティ。20代みたいな爆発的で破滅的な色気とはまた違った、ちょっと気だるげだけど虎視眈々とギラギラしてる30代の色気が曲に表れてる。木村と吾郎って信じられないぐらい声の相性が良くて、木村の裏に吾郎の甘い声が入るとすごくセクシーな響きがある。
木村の「あきらめる前に 口ずさんで」の"さんで"ではにゃあ♡ってなってしまう。そして吾郎に「アタマでカラダ縛らないで」って歌わせるのエッチすぎ。狙い通り燃えたぎりましたわ。
真夏の脱獄者
『GIFT of SMAP』(2012)収録。
椎名林檎作。林檎の曲ってなんでこんな雑味がないんだろうな。ジャジーで洗練された空間の中にブルースの哀愁の香りをかすかに感じる。入りの「世界中のどんな牢獄より狭い場所に囚われている」からぐっと世界観に引き込まれる。そして「さあ最高の夏へばっくれようよ」って香取が言ってくれるの、夢すぎて……。
S -SAITEI DE SAIKOU NO OTOKO-
『Mr.S』(2014)収録。
ジャジーで華やかで怪しげなサウンドに、40代に突入したSMAPの色気あるキャラクター造形が合致して、より強力な磁力が生まれている。ドラムのどかどかっとした重低音がスパイス。
バラード(15曲)
スロー、AOR、ボサノバなど、落ち着いた曲調のもの。
September Rain
『SMAP 004』(1993)収録。
吾郎ソロ。80年代シティポップスっぽい。吾郎がウィスパーボイスで訥々と失恋を歌う。神秘的かつ少年らしさを残した吾郎の声は唯一無二のきらめき。吾郎の表現力というか、纏ってる空気そのものの詩的情感をまざまざと感じさせられる。もちろん歌詞もすばらしい。
胸へと押しつけた横顔を抱えこんで
君のそのはげしさと ひとつになりたかったよ
御影のテーブルに焼けた頬 冷ませるのなら
空の果てからくるどしゃぶりを待ったりしない
『SMAP 005』(1994)収録。
吾郎&森。作曲は『モンローウォーク』で知られる南佳孝。ボサノバ風味で暖かくゆったりと流れる風を思わせる。リラックスした中にひそやかに響く森ゴロの繊細な声が、じんわりにじむ水彩のようで美しい。とりわけ吾郎の良さが際立っていて、003からの成長が凄い。吾郎って本当にデュオ向きの声質で、ソロだと危なっかしさが残るけど、他の人が下地をならした上にこの声がひとたび乗せられると一気に曲全体の色がガラッと鮮やかになって抒情性が生まれる。
『SMAP 005』(1994)収録。
木村&吾郎。甘く切ない曲調から純粋な悲恋の歌かと思いきや、彼女の部屋を外から監視するも朝まで帰ってこなくて
あの窓の中で 大人の君を知った
あの日からずっと 恋人になった気でいた
勘違い粘着ストーカーのポエムやんけ。でも他の男がいると分かったらちゃんと引く男ではあるので安心。005の吾郎は本当に凄すぎる。繊細で透明感のある禁断の花園っぽい色気を纏っていて、かつちょっと舌足らずで付け込みたくなるような隙がある。吾郎ってデュオでフラれソング歌うとなんか…エロすぎるな。
切なさが痛い
『SMAP 007〜Gold Singer〜』(1995)収録。
中居&木村。落ち着いた曲調でアーバンな雰囲気。静かに響くグルーヴが深みをもたせている。木村は変な癖つけずストレートに歌って歌唱力を遺憾なく発揮しているし、中居も中居で素直な歌い方で言葉ひとつひとつを大事に発している感じがナチュラルで魅力的。
EAO
『SMAP 008 TACOMAX』(1996)収録。
吾郎&森。ボサノバテイストで清涼感漂う、森ゴロきっての名曲。彼女と別れたいけど中々切り出せない男の歌。
どこから説明すればいい?漠然と別れたいんだ
僕の態度がヘンなことに 気づいているの いないの?
このひどい男感、若吾郎のツンとしたつれない猫ちゃんみたいな雰囲気にすごく合ってる!「甘い囁きも 苦痛な響き」ひどすぎワロタ
吾郎のセクシー路線が極まっていて「こういうのは苦手」のところとかジャニーズ史に刻まれるレベルで凄い。吾郎の艶っぽい繊細な声と森のさわやかでのびやかな声の相性が最高。イエ~オイエ~オ(怪鳥)
それはただの気分さ
『SMAP 011 ス』(1997)収録。
吾郎ソロ。作詞・作曲はフィッシュマンズの佐藤伸治。独特の浮遊感をもった夢うつつのようなスローナンバー。いわゆるチル。この高い次元で構築された世界観にどっぷりと調和する吾郎の感度・解像度の高さよ。吐息多めのささやきボーカルや雲の間をたゆたうようなアンニュイな雰囲気がトリップ体験のようで心地良い。吾郎、小鳥のさえずりにギターポロロンみたいな空間が似合いすぎる。これと俺様クレイジーマンが同じアルバムに入ってるのすげー… フィッシュマンズのセルフカバーも最高。名曲。
27枚目シングル。『SMAP 012 VIVA AMIGOS!』(1998)収録。
スガシカオ作詞、心地良いアコースティックなバラード。
あれからぼくたちは 何かを信じてこれたかなあ
若者が抱く漠然とした未来への不安や根拠のない無敵感を色鮮やかに描いた詞。SMAPの歌唱が拙さや不器用さを思わせて、言葉が自然に染み入る。初っ端から枯れてる中居の声がいい味出してる。この曲の影響で「心のやわらかい場所」って表現使う人多いけど、すごく詩的な表現が慣用表現になるのうつくしい現象だね。夜空ノムコウは誰がどれだけカバーしようとずっとシカオとSMAPの手元にある感じで不可侵な世界観の高さを誇っていて、すごく貴重な曲だなと感じる。
HA
『La Festa』(1998)収録。
木村ソロ。良い男がはぁ~ん…って喘いでる歌は問答無用でいいですよ。ジャケットの雰囲気に一番合ってる脱力感のあるR&B(ジャケットはビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』のオマージュで、60年代サイケ風味とどことなくトロピカルな感じがかわいい)。木村は細かい音の外しとか抜け感演出するのが本当に上手い。
End of time
『Fly』(1999)のc/w。
北欧ポップスを思わせる夢うつつ感とノスタルジーを感じさせる曲。アンニュイポップスの申し子・吾郎が輝く。ライブでカーディガンズの『カーニバル』を歌う吾郎を見た時あまりにも大衆がイメージする”吾郎”の体現で思わず笑っちゃったんだけど、こういう作品をちゃんと作ってもらえて良かったね…って心から思った。草彅も中性的な声でよく似合ってる。
逢いたくなって
『BIRDMAN〜SMAP 013』(1999)収録。
中居&吾郎。珍しい組み合わせによる正統バラード。ピアノだけのシンプルなサウンドで、静謐な中に澄んだ音がコツコツ響いて美しい。いつも中居にいじられてる吾郎がSMAPきってのバラードの名手として中居の拙いボーカルをリードしてるみたいで、なんだか微笑ましい。
朝日を見に行こうよ
29枚目シングル。『BIRDMAN〜SMAP 013』(1999)収録。
オリジナルじゃなくてカバー曲なの初めて知りました。素朴でシンプルな魅力のあるスローナンバー。木村節効いてる。こういう落ち着いた曲調にぐねぐねした歌唱が意外とマッチしてる。歌い出しの「眠れない夜は 僕を起こして欲しい」の"引き"がすごい。
らいおんハート
32枚目シングル。『S map〜SMAP 014』(2000)収録。
草彅主演ドラマ『フードファイト』主題歌。同作品監督の野島伸司が作詞。やっぱり歌い出しの「君はいつも僕の薬箱さ どんな風に僕を癒してくれる」が一番言葉の力を感じる。色んな意味で魔力のある曲だなあと思う。
freebird
34枚目シングル。『SMAP 015/Drink! Smap!』(2002)収録。
SMAPの纏う自由な空気を象徴する曲。青い空に似合う小気味よいサウンド。すでにでっかい存在となっていたSMAPくんがこういうLOHAS的な気負わない自然体の魅力を演出するのすてきだね。PVも最高で、ひたすらセクシーな中居と「自由になりたい?」「自由になりた~い」って二人の世界に浸るしんつよ。
ひなげし
『We are SMAP!』(2010)収録。
静かでゆったりした中に確かに染みわたる花の香のような心地良い空気。こういう感動っぽい曲調苦手なんだけど、これはあまりに美しい。特にロハスのデュオ部分の美しさたるや。吾郎の「もし僕がこのまま 眠りの中に閉じ込められたら」もすんごいし、つよしの「確かめるように この指先が頬を伝うなら そのまま僕を抱きしめてくれないか」やばいっす。抱き…締めるよ。つよしの甘く繊細な声が愛おしい。あーた綺麗よ…。
短い髪
『We are SMAP!』(2010)収録。
草彅&香取。麻生哲朗作詞の抒情的で物語性のある曲。
亡くなった彼女を思う歌。しんつよって満たされないものがずっとたゆたってて孤独に苦悩する切ない雰囲気が鬼似合う。
短くした髪で笑う君が 思い出の最後
よく似合っていたのに うまく褒められなかったな
「記念日に作るからね」と君が書きとめたレシピのメモは
まだ冷蔵庫に貼られてるまんまだ
ロック、メタル(4曲)
こんなに僕を切なくさせてるのに
『SMAP 004』(1993)収録。
木村ソロ。Aメロの硬派っぽい?歌い方が印象的なロックナンバー。サビが静香のブルーベルベットにちょっと似ててニヤ…と顔が歪んでしまう。ハーモニカソロがあったり歌い方をシブく硬派な感じにしてたりと、かなり”ロックンロール”のパブリックイメージに忠実な感じ。
破れた毛布で ちぎれた心を何度でもあたためよう
13月を書き出す Diary
ルナティック雑技団の愛咲ルイみたいな歌詞、木村さんらしくてかなり好きです。
それが僕の答え
『SMAP 007〜Gold Singer〜』(1995)収録。
R&B路線を邁進していた中で気分転換的な立ち位置のロックナンバー。シルクロードっぽい異国情緒もあり。最終電車で今は疎遠になってしまった友達を見つけて、声を掛けようかと思ったけど相手は疲れているだろうから何もせず立ち去ったという歌。旧友と再会しても声を掛けず"大人の計らい"をする姿勢から、青年から大人になっていくことの侘しさや人生の渋みを思わせるも、あくまでさらっと軽快に歌い上げた曲。
『青いイナズマ』(1996)のc/w。
SMAPでは珍しいハードロック。ギターがヘヴィでかっこいい。前奏はちょっと変背側的で複雑な旋律なのがプログレメタルっぽい。よいこちゃん風味と重低音の割合が後期の聖飢魔Ⅱ曲に似てるなあと思った (後期聖飢魔Ⅱは悪魔要素少なめで比較的マイルドで技巧的な趣)。正直全体としてはまったりしてて、あまりSMAP歌唱の良さが活かされてるとは思えないが、ギターリフが好き。異種混合みがあって新鮮ではある。
恋があるから世の中です
『SMAP 008 TACOMAX』(1996)収録。
ダンサブルで力強いロックナンバー。タイトルからして良い。中居ソロ、とりわけ「好きになればなるほど相手の」の箇所が最高に上手いのでそれだけでも聞く価値あり。喉から絞り出される苦しげでいっぱいいっぱいの声に不思議と惹きつけられる。香取の歯切れの良いラップと掛け合うようにうねるテクニカルなギターが最高でボルテージが上がる。
コミックソング(8曲)
ユーモアのある曲。
正義の味方はあてにならない
2枚目シングル。
イモ欽トリオみたいな昭和のテレビの世界観。ところどころ入るメンバーの小芝居が初々しくてかわいらしい。学級委員という「名誉のあるなんでも係」を仰せつかった真面目一徹の少年が学校や家庭を通して幼いながらも不条理を学んでいく歌。
『BOO』(1995)収録版はニューウェイブっぽいアレンジで最初Der Planか!?とびびった。子ども向け歌謡っぽいメロディラインに遊び心あるハードな電子音が掛け合わさることでノイエ・ドイチェ・ヴェレっぽい仕上がりになっていて、歴代リミックスの中でもきっての名アレンジだと思う。
12枚目シングル。『SMAP 006〜SEXY SIX〜』(1994)収録。
SMAPにとって初めて初登場1位を獲得したシングル。タイトルから想起される代物とは良い意味で程遠く、出だしから重めの打ち込み音が支配し、ヒップホップの要素を取り入れグルーヴ感をしっかりと保ちながら軽妙にナニワの商人の関西弁ラップが展開していく奇妙な名曲。ナニワらしい雑味とケレン味たっぷりで、得体の知れないゴテゴテ感が不思議と心地良い。
みんな1人じゃないのだ!?
『SMAP 011 ス』(1997)収録。
中居ソロ。中居曲はどれも破壊的な輝きに満ちててすごい。まず「中居台風12号襲来」のニュースが流れる衝撃的な始まり。
音痴がうつる可能性があるので十分な警戒が必要です
呆然としている間にヒップホップ調のダンスミュージックが展開される。自虐風のラップが繰り広げられ、中居ランド、開幕━━━。唐突こどもの国みたいなアレンジが入ったりハードコアなアレンジが加わったり、マー坊などの声芸も披露するなど多彩で飽きさせない構成。この完璧に構築された世界観の前に何の言葉も不要。びっくり箱みたいな驚きと興奮が詰まっているエンターテイメントを体現するかのような曲。
オイラの人生のっぺらぼ〜〜!
『La Festa』(1998)収録。
中居作の怪奇ソング。9分の超大作。プログレか?
最初はコギャル3人組の会話から始まる。
「ねーねー知ってるぅ?SMAPの中居死んだんだって」
「ウッソーマジィ?あいつも死ぬんだあ」
「嘘に決まってんじゃんまたウケ狙ってんだよ」
初っ端から痛烈な罵倒が繰り広げられるこれまた衝撃的な一作。コギャルと相性良すぎだな、中居…てめえがギャルちゃんだから…。何が起こってるのか分からない内に中居の読経風の自虐やラップがテンポよく展開されていく。途中でいきなりタモリや石橋貴明が台詞で参加するなど、演出が多岐にわたりすぎてカオス。その後もサンバっぽい曲調になったりガチヒップホップになったり目まぐるしく曲の雰囲気が変わっていく夢の国のような趣。最後はゲームオーバー風の音楽と鐘の音ゴーン…で終了。という構成で、中居の笑いへの偏執を感じる非常にエネルギッシュな曲。
『SMAP 016/MIJ』(2003)収録。
香取ソロ。
ああっ…ダメだ…ダメだよ…僕の人生って……ッ
ああっ………!!
人生ってなんなんだ、愛ってなんなんだァ………!!!
初っ端から濃厚な悶えシーンで始まるミュージカルソング。こういう自己陶酔の演技で笑かしてくるの最高に上手いな、香取…。キャイ~ンとの掛け合いでメルヘンな世界に誘われ、王子(香取)が慎吾ママ(香取)にカジノで一発当てて幸せになろうと誘ってフラれる、みたいなよく分からない展開に突入。慎吾ママに「王子きらいっ…」って言わせるとこ、一人芝居すぎてまじでヤベエ~~と大爆笑した。中居といい香取といい、自分の作った女装キャラとの二人一役を難なくこなすとこ、とんでもない男…ってなる。呆然としている間にいきなりムーディーな曲調に変わり、チョナン・カンがハングル版ルー大柴のようなしゃべり方で王子にアドバイスを与え、風のように去っていく。チョナン史上一番面白い瞬間、いや草なぎ史上かもしれない。チョナンの正しい使い方ってこれだったんだ、と"正解"を見る。オッオッオ~イエ~♬ 爆笑している内に大団円で終わる。カオスな7分間。つんくと香取の真髄を見る。
『SAMPLE BANG!』(2005)収録。
中居ソロ。誰もたどり着けない領域まで風のように走り抜ける中居曲、孤高ですばらしいと思います。最初の2分ぐらい正統派のバラードが展開される(もう1曲分だろ)。しっとり世界観に浸っていたらいきなりゴシック調、からのEDM、からのババア風小芝居。小芝居の部分は一気にアングラ感が漂って熟女のショーパブのような紫のライトが妖しく光るようなねっとりした空間。エキセントリック少年ボウイを思わせる、モロ『ごっつええ感じ』のユーモアを堪能。全体で7分と長めだがババアに圧倒されていたら一瞬で終わる。
『We are SMAP!』(2010)収録。
草彅ソロ。つよしが全裸で赤坂公園を10m前転したことでお縄になってしまった伝説の事件を受けてのカバー。ウクレレを掻き鳴らす明るくポップでキュートなアレンジ。笑福亭鶴瓶演じる神様が脱力感あってとても良い。つよしがたわゆい声で「おらは死んじまっただー♬」って歌うのは純粋に愛おしい。一連の出来事が笑いやネタ的扱いとともに世間に受け入れられているのは草彅マジで剛運だと思うし、この世に『帰って来たヨッパライ』という曲があってよかったと痛切に感じた。
あと草彅ってこういうポップでコミカルでどこかギョ…てなるような質感が異常に似合うからファンにガロっぽい女が多いんだなあというのはすごく、思いました。
唐獅子牡丹
『GIFT of SMAP』(2012)収録。
草彅ソロ。高倉健の往年の名曲を小西康陽がアレンジし、ヤーさんぽくしてる草なぎが歌うという摩訶不思議なコラボレーション。歌い出しから何?この歪むような旋律は…と並々ならぬ違和感を覚え、終始不安な気持ちになって叫び出したくなる怪奇ソング。演歌の音階にフレンチポップスのアレンジを加えるとこんな劇物が生成されてしまうものなのか?ぜひタモリ倶楽部で取り上げて欲しい。変と言っても、変拍子やディストーションなどの奇妙だがある種の爽快感を伴うような意図的に作り出される感覚とは一線を画していて、不安のボリショイサーカスみたいな悪夢的仕上がり。しかし、どうしようもなさが極まって生み出される胸が締め付けられるような快感がそこにはあり、おにぎりを窒息寸前まで喉に詰め込んで死にかけながら咀嚼する時の幸福感にちょっと似ている。恐ろしいほどの麻薬的魅力と虚無を併せ持つ曲。禅の修行とかで流すといいかもしれない。
これを初めて聞いた時、小西てめー変なアレンジしやがって…許さねえ!とすべてを小西康陽のせいにすることで気を収めていたのだが、他の小西提供曲を聞くと彼が本当に才気あふれるアーティストだと理解して、余計にこの曲はどうしてこうなってしまったのかと世の無常を感じた。
インスト(8曲)
アルバムテーマ曲。
Theme of 006
『SMAP 006〜SEXY SIX〜』(1994)収録。
ジャズ・ファンクの名曲。私のようなズブの素人でも分かるぐらい、003と比べて如実に音が良質になっている。一気にブラックなグルーヴ。ホーン、とりわけサックスが非常にビビッドですばらしい。We gonna make funky!
Theme of 007 (James Bond Theme)
『SMAP 007〜Gold Singer〜』(1995)収録。
映画『007』テーマ曲のカバー。この演奏の前に何も言葉なし。豪華絢爛なオーケストレイション、刺激的なドラミングやスラッピング、重厚なグルーヴ、フルートの色彩豊かなソロ。洗練の極致。名曲揃いのアルバムのテーマにふさわしい風格。これがアルバムの終わりを締めることで、最後の最後まで夢見心地の気分を味わい、しっとりと余韻に浸ることができる。
Theme of 008 piano sonata no.8
『SMAP 008 TACOMAX』(1996)収録。
ベートーヴェン『ピアノソナタ第8番』のストリングスから始まる。ピアノソナタと曲名に入っているがピアノの演奏はなし。その後勢いよくバンドサウンドが展開。クラシックの風格とジャジーで迫力のあるバンドサウンド両方を味わえる。006からのジャズ路線をより高次に高めている。
Theme of 011 "ス"
『SMAP 011 ス』(1997)収録。
ナイル・ロジャース作の豪華すぎるテーマ曲。アルバムを貫くポップで洗練された空気感を濃縮し、同時にファンクの力強さを肌で感じる。
Theme of 013
『BIRDMAN〜SMAP 013』(1999)収録。
一分の隙も無く完璧に構築されたダンスミュージック。打ち込みの冷淡で硬質な音がアルバムテーマである「バードマン」のハードボイルドで退廃的な世界観を作り上げ、追い立てるようなテンポの上昇によって熱が極限まで高められる。ライブでの5人のダンスは神の領域。最高。アルバムテーマ曲で一番好き。
Theme of 014
『S map〜SMAP 014』(2000)収録。
フェス感がすごいサンバ風味のヒップホップ。出だしの重くてひずんだ音がかっこいい。ノリにノってた当時のSMAPくんを象徴するかのようなパリピの音。
Theme of Mr.S
『Mr.S』(2014)収録。
映画のサントラのような物語性を味わえるジャズ・ファンク。豪華で芳醇なお上品さの中に毒っ気と遊び心を感じる。
Theme of 019 super.modern.artistic.performance
『super.modern.artistic.performance』(2008)収録。
The Black Eyed Peasのwill.i.amプロデュースの気合入ったEDM。微塵の雑味もなく構成された完璧でシームレスな電子世界。
以上!
ありがとうございました。
参考、必聴アルバム
『SMAP 25 YEARS (初回限定仕様)』
ベストアルバム。とりあえずこれを買っておけばOK。
http://www.amazon.co.jp/dp/B01LTHYE68
『Clip! Smap! コンプリートシングルス[Blu-ray]』
MV集。SMAPは動いてるのがやっぱいいね。
http://www.amazon.co.jp/dp/B01LTHM7YO
↓名盤中の名盤。良い曲しか聞きたくない人はとりあえずこれだけ買えばOK(パート2)。
『SMAP 007』
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005GWY4
『SMAP 008~TACOMAX』
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005GWZ7
『SMAP 009』
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005GX02
『SMAP 012 VIVA AMIGOS』
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005GXLN
『嘘の戦争』感想【ネタバレ】
先日嘘の戦争を見終わりました~♬♬
前作の銭の戦争が良かったので元々期待値が高めだったんですが、それを見事に超えてきてすっげ~面白かった。今まで見た草なぎ主演ドラマの中で一番面白かった。何より草なぎがかっこよくて……髪型も服装もイケてて……ありがとう。
主役の一ノ瀬浩一(本名:千葉陽一) は幼少期に目の前で一家を惨殺され、かろうじて生き残って必死に事実を訴えるも聞き入れられなかったことで心身ともに深い傷を負い、タイで詐欺師として新たな人生を送る男。ある日自分を殺そうとした犯人と偶然出会ったことをきっかけに日本に帰国して復讐を始めるというストーリー。
前半は経営コンサルとして主犯格の仁科興三一家に接近し内部に入り込んで事件関係者を徹底的に抹殺していくスリリングな展開。鮮やかな詐欺の手口と、最初から浩一に不信感を抱いてる仁科家次男・隆との駆け引き、興三の愛娘・楓とのラブストーリー(結婚詐欺)がメイン。相棒ハルカ、弟分カズキとの見事な連携もテンポ良くて見応えがある。
後半部は詐欺です!!復讐しにやってきました!!!ってバラしちゃって浩一と興三がひたすら大暴れ。詐欺グループ内の造反もあったり、六車というヤクザ傭兵みたいな男が出てきて熊用の罠に引っかかってたりわちゃっとしてた。
草なぎは目頭がビッ!と切れてて、線がシャープで、翳があって、独特の飄々とした雰囲気が暗い過去を持つ野心あふれるアウトロー設定にすごく合ってた。わたしは胡散臭くていやらしいかわいそうな男が好きなのでこういう役柄を演じてくれてすごくうれしいです。ありがとうね……。
タイでのいかにも怪しげなエスニックファッション、病院に忍び込む時のインテリ細メガネスーツ姿なんかは最高。特に細メガネは結構な頻度で掛けてくれて本当に本当に感謝。つよしは鼻梁がシュッと細くて高くて目が切れ長だからメガネが似合うね~~
SEXY。
3話で復讐相手の刑事が浩一にハメられたと悟るシーンでの浩一の表情はすごく印象的だった。自分の思惑通りに復讐が成功したんだけど、表層的な喜びはなくて相手をじっと見つめて静かに涙を流すのが本当に綺麗だった。復讐してもしてもやり切れない情念や苦しんできた年月の長さを、あの短いワンカットから感じさせられましたね。その刑事が自分は騙されてると理解した上で、彼自身の意思で冤罪を受け入れる展開も良かったな~でも三瓶のことは今までお世話になったからって合成スキャンダル写真ばらまかなかったけど、刑事もわりかしいい人だったのに容赦なくハメたのひで~よな笑 そこの浩一自身の矛盾は復讐を進めていく内に心境が変化したということかなと思いました。
あと、五十嵐が無敵の人状態になって興三を刺殺しようとするまで追い込んで、かつ自分の三文芝居の演出として使ったのは卑劣すぎてすげーアガった。この容赦のなさが魅力ですね。しかし千葉家殺害でプロフェッショナルの六車を使っときながらわざわざド素人の五十嵐を随行させてたのは謎。絶対に同じ金でプロの殺し屋雇った方がいいじゃん!?案の定浩一を殺し損ねてるし…と思った。医者を飼っとくと何かと便利だから秘密を共有して仁科家に絶対服従させるため?
そして、嘘の戦争最大の魅力といえばやはり仁科晃。
↑ヨイショしてくれる年下エリート男性を引き連れてえらそげな晃
仁科晃、声がデカくてデリカシーと学習能力の一切が欠落したボンボンおじさん。かわいそうでかわいい男(バカだけどバカにされてることは分かってるのがミソ)♡
晃は世間知らずでお調子者だから今まで色んな人に騙されて仁科家に損失をもたらして、そんな自分がどうしようもなく恥ずかしいからいつも挽回しようとするんだけど骨の髄までバカなので同じ失敗を何度も何度も繰り返してまた家族を失望させて…の無限ループで本当にこっちが泣きたくなる。虚栄心の強い拗らせアホ男好きだ~~………。そういう劣等感につけ込んできた浩一を心の底から信頼して、ちょっと浩一も心を許しかけるんだけど結局手ひどく裏切られるという悲惨な結末を迎える。
所々で晃ってバカじゃなければ、出会い方が違えば、浩一の良い友達になれたかもしれないよねって思わせられてまた泣く。浩一に俺たちで野球チーム作ろーよ♫って話してる時の表情とか本当に楽しそうで……晃、騙されてるとは言えこういう幸せな会話することができてよかったね……泣 あとなぜか妹・楓と浩一のデートに付いて来て(最悪…)、マブダチ浩一がかわいい妹のこと好きって言ってくれて何重にも嬉しくなっちゃってすげーニコニコしてて、もうめちゃくちゃバカで…良い彩りでした。アホだけど面倒見のいいガキ大将タイプの兄ちゃんと頭良くて美人なのに奥手な感じの妹の関係性かわいかった~
かわいっ………。
なんか…悪い奴じゃないかもしんない/////と思い始めた直後、晃がOL殺人事件の遠因作ってたと発覚して一気に突き落とされる。興三、他人の事件隠蔽のために一家惨殺ってアフターケア充実しすぎでは?って疑問だったけど、結局は仁科家の威信にかかわる問題だったから殺人まで犯していたと分かっていやにすっきりしちゃった。やっぱりアホは罪なんだなっ…て強く実感させられる。(………。) 残酷すぎるだろ!!泣
一番心臓がキューーーッ!!!となったのは社長解任通知の時。弟だけでなくよき右腕であり友人でありかわいい義弟(予定)だった浩一にも捨てられて、雨が降りしきる中膝から崩れ落ちて「君にまで見捨てられたら…1人でどうしたらいいんだよ〜泣」って…も、も~やめたげてよ~おじさん泣いてるよ~かわいそうだよ~~泣って号泣した。シリーズ通して拗らせた男を徹底的にみじめに晒すの好きだね……そういうのすごくいいと思います。でも今までよりとどめの刺し方が弱くて、地獄に落ちろ♡とは言ってたけど浩一もちょっとは晃に愛着湧いてたんかなと思った。愛いやつめ……。
そして社長解任以来、物理的にも精神的にも拠り所を失って「俺がなんとかしなくちゃ…俺がやらなくちゃ…」っていつぞやの五十嵐みたいにやばい精神状態になってフラフラ徘徊してた不審者・晃、突然現れたかと思えば浩一を刺す!ヴォケーーーーー!?お前のこと好きって言ったの嘘です。嘘です。って絶叫した。
けど実は浩一の頼みで刺殺したように見せかけただけで、浩一は逃亡する時間的猶予を得て晃は殺人の罪を被ることで一時的にしろ贖罪の気持ちを満たして一石二鳥♫みたいな策略で……。浩一刺殺自体は虚偽でも晃は過去に千葉家殺害の遠因を作ったわけだし、すごくうまいやり口だな~と感心しちゃった。興三の誕生パーティーといい刺され芸好きだな浩一~!周到で陰湿な心理戦とは対照的にフィジカルへの過信がかわいい。楓との出会いもわざわざガチで事故ってたもんな…
次男・隆はというと最後までひとりず~っと浩一を疑ってて目の上のたんこぶだったんだけど、会社とともに先代の罪をも引き継ぐ覚悟のある漢気あふれる男で…いいですね。常に冷静沈着で浩一とは別種の食えない男なんだけど、唯一オーストラリアの伝承の覚え間違いで浩一=千葉陽一を確信するところでニヤーーー!!!と激ニヤリ顔見せてくるのがかわいかった。最後タイに出国する浩一との別れ際、好敵手としての独特の距離感が表れててよかったな~互いに「コイツ嫌だな…でも頭切れてクソむかつくな…」っていう苦手意識がにじみ出てて萌え。晃といい良い兄弟だね……。
作中で一番アツかったのは謝罪会見のシーン。ついに千葉家殺人事件についての謝罪会見を開かせることに成功したたかと思いきや仁科興三の大立ち回り、隠蔽・殺人事件には一切触れず代わりに粉飾決算の謝罪(会社ではなく興三個人へ批判が向くように先回りしたリスク回避)と詐欺の告発(批判の矛先をずらす)、ついでに新プロジェクトも発表しちゃお♡ってクソ狸すぎてうおおおお!!?って燃えた。あのシーンは市村正親の貫禄があってこそだな~心臓病で倒れた時の白目ヒン剥いたところも怨念こもってて凄かったけど、このどんでん返しは圧巻だった。
9話の警察が浩一を追ってることを利用して六車逮捕まで誘導するところもアツい。詐欺仲間の百田とカズキが一旦寝返ったけどまた都合よく協力してくる展開が良くって…特に百田はバー経営してインコ飼ってるのが似合う見事な胡散臭さで詐欺師という役柄ぴったりだった。
しかし自分の娘が爆殺されてようやく自分の罪の重さ、浩一の味わった苦痛を知る興三、何???最愛の娘を人質に取られすべての罪をネット配信されて既にどん詰まりなのに、最後に謝罪を迫る浩一に暴言吐いてたの意味が分からなかった。興三って冷徹な経営者タイプだけど別にアホでもサイコパスでもなかったのに、言動が衝動的すぎるし人の感情理解するの遅すぎる。そこは既に第一線を退いた者の老いや愚かさの表れなんでしょうか。
この作品は嘘がテーマになってるけど、嘘つかれて騙された~ぴ~ん泣とかじゃなくて「本当のことを言ったら嘘つき呼ばわりされて、嘘をつかされた」のが浩一にとって一番耐えがたいことだったってのが新鮮だった。家族を奪われたことの悲しみや憎しみというより、罪を着せられた父親と嘘つき呼ばわりされた自分の名誉の回復と、犯人に事実を証言させて「何が本当で何が偽りなのか」をはっきりさせたいという秩序意識や誠実さが一番の動機だったんじゃないかな~と感じた。
最後ら辺で楓が浩一に「あなたは嘘ついた自分が許せなかったけど、嘘つかなきゃ殺されてた。嘘があなたを救った、あの時嘘をついたのは正しかった」って伝えたのが作品全体のメッセージとしてすごく良かった。嘘をついた過去を許容することが千葉家殺害に関して沈黙を貫き続けることにした仁科家をも肯定してると思うと疑問が残るけど、復讐をする中で刑事や三瓶のような善人であっても一生涯清廉潔白を貫くことがどんなに難しいかや、隆のような加害者家族の覚悟を知って、浩一自身も詐欺師という身だし「嘘」を抱え続けて生きる道っていうのもアリなんじゃないかって思えたんですかね。嘘の戦争はトラウマ的にも生業的にも「嘘」をアイデンティティの一部とした浩一が自分自身を受容していく物語だったと考えると、断罪的な結末にならなくて良かったな~と思います。
何はともあれ、嘘の戦争&草なぎの細メガネ&仁科晃、Love forever……✞
ありがとうございました。
映画『まく子』ネタバレ感想
先日、映画『まく子』を見ました~
かねてより板前姿の草彅さんの写真を見掛けるたびずっと見てえ~と思っていたので、プライムに追加されたのを機に鑑賞しました。
山間の温泉街のゆったりとした風景の中で、思春期の身体の変化に戸惑う少年の苦悩と成長が描かれた作品でした。「最後壊すと分かった上で作られる神輿」と「いつか死ぬと分かった上で生きていく僕たち」の対比が象徴的に用いられ、神輿を自分たちの手で壊すことで自らの小さな死を受け入れ、再生につなげるというみずみずしいエネルギーを感じました。小さな死の連続の先にある新たな生、その変化に伴う嫌悪感まるごと受容していくという姿勢ですね。
小5のさとちゃんが浮気する父親のことを「野蛮」と言うのが印象的でした。不潔と言うのは分かるけど、獣みたいに自分の快楽のみを追求して母親を悲しませていることを指しているんでしょうか。それとも無垢な正義感・道徳観をもった子どもにとって、判明に理解しがたいもの、自分の内にまだないものに対する異物的な感覚、嫌悪感、恐怖にも似た感情から出た言葉なんでしょうか。
神輿を破壊するシーンでこずえとさとちゃんに加え父親の愛人も参加していたのは、大人であっても破壊の選択をしていかなければならないという意味なのかなと勝手に思いました。ここで象徴的に示される破壊とは過去との決別、小さな死で、さとちゃんにとっては子どもから大人へと成長していくプロセスで捨て行く「子どもの僕」、愛人にとっては不倫相手及び交際していた月日、こずえにとってはこずえという肉体の小さな永遠。(あまりに単純化しすぎているかもしれませんが……。)
ただ壊すのではなく「ちゃんと送ってあげないとかわいそう」「消えて終わりじゃないように、再生する力に生まれ変わるように送る」と言う愛人ですが、不倫という関係性を終わらせる際、過去は変えられないけれども次に生まれ変わるエネルギーにする、終わってしまうから価値がないというのではなく、終わってしまうからこそ愛をもって送ろうというのは、父親の不倫と並列して神輿を壊すことも野蛮だと言っていたさとちゃんに対するアンサーなのかなと思いました。
さとちゃんの成長において父親との言葉を介したぶつかり合いや父親の方からはっきりと「愛人と別れる」と宣言してくるとかそういう明確な変化の場面はないんだけれど、さとちゃんが主体的に色々なことを吸収して摂理を受け入れていくのが自然に丁寧に描かれていて希望的なものを感じました。周りの大人は決して教え諭す高圧的な役割ではなくて、それぞれの距離感でさとちゃんを温かく見守ってくれてるんですよね。
作中で「小さな永遠」「大きな永遠」という言葉が出てくるのですが、小宇宙の観念について語っているのかな~と思いました。大いなる宇宙、天地と時空の包括概念に対する一人の小さな人間、しかしその内に宇宙の原理を抱く存在としての人間についてだと私は解釈したのですが、そうすると「体の中からこずえの声がする~」あたりの意味が個人的に納得できました。こずえは宇宙に還元されて、人々の中の小さな永遠になる的な……。
細胞が死と再生を繰り返し新しいものへと生まれ変わっていくこと、つまり細胞分裂であったり新陳代謝であったりの生命の動きというのはまさに宇宙の理としか言いようがない神秘的なもので、表面に現れる精通や初潮などの現象は、当事者の少年少女たちにとっては恐ろしく時に不快感を催すものであるが、そのような変化が神秘によって衝き動かされているというのはなんとも不思議な感覚というか、こんな小さい体の中に大いなる神秘が潜んでいるということは、日々心を悩ます事象がいかに矮小であるかを思い知らされるんだよな~と考えました。(スピ?) 小宇宙は常に死と再生によって変化していくものだが、その内に小さな永遠を抱いているという変わるものと変わらないものの対比がメッセージとしてがつんときました。
ドノのいう信じる論については、この世の不条理、とまで言わなくともこの先単純な問答では判別できない事柄に接したときひとまず「受容する」というプロセスを学ぶということなのかなと思いました。第二次性徴における自分の身体に対する生理的な嫌悪感がまさに人生における初めての不条理みたいなものなんでしょうかね。
お城の跡で落ち葉を撒くところは、まさに「不来方の~」の歌が思い出されるような綺麗で印象的なシーンでした。タイトルの「まく子」が「撒く子」であると気付くのにかなり時間がかかりました。
「全部落ちるから撒くのが楽しい。ずっと飛んでたらこんなに綺麗じゃない」というセリフは、永遠でないもの、刹那的なものに対する情愛が感じられて非常にいいな~と思いました。神輿の破壊にも通底する部分ですね。
こずえを演じた新音さんは適役でしたね。ファンタジー存在を演じきるあの神秘的な美しさは、鑑賞者にさとちゃんの恋を追体験させるようで圧倒的でした。
こずえの宇宙の話が砂絵で描かれるんですが、こずえの言う「身体が粒で出来てる(粒=細胞?)」説を表しているようで、映像美、こだわりを感じました。
草彅さんに関しては、彼は生来のさわやかさ、柔和な面持ち、やわらかくて甘い声で好青年的なパブリックイメージを形成していると思うのですが、それらが見事にたらし要素へと変化し、化学反応のごとく色気が増大していて最高でした。草彅さんの演じる姿を見る度に、この男の無尽蔵のポテンシャルは何だ!?とびっくりしてしまいますね……。
登場シーンでは、みんなが食事してる場にタバコ吸いながらスマホいじって現れて、食べないの?と聞かれて「おれいーや」と言うんですが、あの間の抜けた声がたまらない。最高。
美少女にいやらしくにやにやするところとか、本当にすけべさがにじみ出ててこうも別人格へと変貌できるのかとびっくりしました。私はどうしようもないが愛嬌だけはあるヒモ男っぽいのが好きなので、フラフラ飄々とした子持ちの色男はたまらないものがありました。
「おお~こずえちゃん学校どうだった?」と下心はあるがあくまでも町の大人として良識をもって声を掛けるあの微妙なニュアンスの表現!すばらしい。そしてシカトされて困り笑いを浮かべる感じ、そのあと「めちゃくちゃかわいいなあの子ぉ~♡」とでれでれしながら周りに言うの、ほんと、ほんと、ほんと……憎みきれないろくでなし感がにじみ出てて、まじでこういう男だった?つよし……と錯覚するほどでした。背を丸めて煙草吸う姿、なんて似合うんだこの男………。愛。
あと、こずえちゃんと仲良くしてんの~?とお母さんに聞かれたさとちゃんを「あんなにかわいいんだから仲良くしてるに決まってるよな♡」と言ってヘッドロックしてじゃれるところ!かわいい!たらしがそのまま父親になった感じ!そして振り払われてガチで機嫌悪くなる感じとか……リアルクズ父……かわい~♡うまい~♡てんさ~い♡(………。)
そして「さとしのやつだいぶお年頃きましたよね」と言われ「あ、そう」「いや俺鈍いから分かんねんだよそういうの。りょうちゃんの方がよく気が付くと思うよ。」と息子の成長にあまり気に掛けず自分より弟子?の方がよく分かってるから~と他人任せにする感じ、初見時は頼りがいの無い感じ、ダメ感がやらしくていいな♡と思ったんですが、原作者西加奈子さんのインタビューを読んで印象が変わりました。
『クズだけど、父親っぽく振る舞っていないことそれ自体はマチズモからの脱却である』という指摘で、そういう旧来の父親像にあてはまらない父親という観点から見ると、たしかに基本的には我関せずだけどさとちゃんが「おれの金玉変かな」って聞いてきた時にはちゃんと答えてやる姿勢はとてもいい父親かもしれないと思いました。
おにぎりのシーンについても、
『間違えるとすごくいいシーンになっちゃうから。でも鶴岡さん(監督)も、草彅さんも、わかりやすくサトシに歩み寄るシーンにしていない。サトシ君は息子なんだけど、それ以前にちゃんと人間として接している。いいシーンやったなと思います。草彅さんの目線がフラットだからかな』
クーーーーーそうなんだよな、分かりやすい感動シーンみたいな演出じゃなくて、おにぎりの湯気だけで風味ってか情緒を表してるのすごい。さとちゃんは終始黙ったまんまなんだよな。そして「こうするとな、感覚マヒして熱くても握れんの」という経験で得た知識を何気なく教えてくれる父親の姿は、大人になることがそう悪くもないのかもしれないと思わせる意味合いもあるんでしょうか。普段だらしなさばかりが目につく父親の、ちょっとかっこいい姿が染みますね。そしてさとちゃんの頭をくしゃ、として去っていく草なぎーーーーー♡
息子のパンツを洗ってやるところ、洗剤を乱雑に入れるところで「これ入れんのか?まいいか入れちゃえ」リアルー!ほんまにつよしが言うてるみたい。言いそう。萌え~。(1990年代初頭秋葉原生息オタク?) 草彅さんはリアルと物語の境を行ったり来たりする稀有な役者ですね。
そして大本命「僕の金玉変かな」と聞くシーン、あれは至高ですね。変な意味ではなく、本当にこの作品の中で一番ぐっときた。
「父ちゃんの金玉の方が変だぞ」
「うわっ…おえっ…」
「おえだよな。お前も俺も、ほんと。みんな変だよ。みんなおえだよ」
「気持ち悪いって思っていいんだ」
「だってきもいだろ~?きもいよ。」
この時二人の顔のアップというシンプルな構図なんですが、草彅の表情をなんて表したらいいのか。愛をもったまなざしというのも違うし、若人に対する親しみの情というか、うーーん見て!草彅の才を!としか言いようのないシーンなんだよな。じとっとした瞳が人生の倦怠感というか哀愁を表してて、いい感じにくたびれてて最高。自らにグロテスクな部分があることを受容するということ、そしてみんなきれいなもんじゃないんだぞということを、何気ないユーモラスなやり取りの中で父から息子へ伝えているのがいいなと思いました。キモさは希望。
そして「今度母ちゃん傷つけたら許さない、絶対」と言われたとき、それまでずっとさとちゃんが言葉を紡ぐのを待って瞬きせずに見つめていたのに、瞼をぱしぱしさせて「わかった。」と言うところの愛嬌よ!決しておどけたりしてるわけではないのに、この男のかわいさ憎めなさを思ってしまうすごいシーンなのよ。こうやってこの男は許されてきたんだろうな~という……。草彅剛は天才であった……ツー(流れ落ちるなみだ)
以上!全体的にすごく良い作品でした!見れてよかった!!おわり!
『No.9-不滅の旋律-』感想
先日、TBS赤坂ACTシアターで稲垣吾郎さん主演の舞台『No.9-不滅の旋律-』を見て来ました~
19世紀初頭ウィーンにおける激しい変革の最中、様々な思惑や運命に翻弄されながらも古典の名作『第九』を生み出した天才音楽家・ベートーベンと彼を支えた人々の姿を描いた作品です。
私自身は、今年SMAPのファンになって初めて会うのが吾郎さんということで、もうブチ上がりもいいとこ、大興奮でした。また、観劇自体あまり経験がないもので、生吾郎&3時間の舞台に耐えられるのか…!?と不安でしたが、杞憂でした。
まず第一声を聞いて、一瞬にして惹き込まれました。
吾郎さんといえば繊細な甘い声の印象だったのですが、誇り高き芸術家を思わせる朗々とした響きよい声を聞き、吾郎ちゃんってこんな深みのある声も出せるんだ…と正直びっくりしました。
激情に身を任せ声を荒げる様、嗚咽を漏らす姿などは真に迫るものがありました。彼のポテンシャルは底知れずですね。
以前彼の主演映画『ばるぼら』を鑑賞し、彼の役者としての能力の高さを理解したつもりだったのですが、生というのもあってか圧倒的な力で覆されたような気がします。
ばるぼらでは彼のパブリックイメージに近い「クールな風を装いつつも内にもろい部分を抱えた色男、自由人」という役どころでしたが、今回のベートーベンは最初から最後まで激情をむき出しにしてモロに他者にぶつけてくるんですよね。天才的な作曲能力の根源でもある鋭敏な感性や病的な偏執のために自ら破滅へと進んでいくような、不器用で、あまりにも痛々しくて見ていられないような人。
やはり吾郎さんはプライドとコンプレックスの拗らせ極致みたいな男性の脆弱性の表現が秀逸だと思いました。誇り高い男がとことん追い詰められてボロボロになってこそ輝く姿がこうも似合ってしまう。刹那的な煌めき、人々を魅了する魔的な力が彼自身の内にもある。
しかし、それを安定して供給できるような、役者としての自覚・矜持と言うんでしょうか、根底のどっしりと構えた芯の存在が確かにあったからこそ、ベートーベンという一人の人間の物語を演じ切ることが出来たんだと思います。
父親の幻影に怯え、身を削るように愛を与え音楽を創り出すベートーベンの姿は、芝居という枠を超えて鑑賞者を惹きつける強烈な魅力がありました。
また、音楽家としての苦悩、父親との確執・呪縛といった暗いエネルギーをまざまざと描き出しながらも、ベートーベンと彼を取り巻く人々の間の親愛や受容を描いた物語でもあったと思います。
マリアやナネッテといった闊達なキャラクター、三枚目のメルツェルやフリッツなどは、とても魅力的で愛着を抱かざるを得ませんね。
特にマリアの義兄はとにかくいいやつ…いいやつ……
ベートーベン自体も偏屈ではあるけど愛すべき人間であるというのも周囲との掛け合いの中で垣間見え、ほっこりしました。なんだっけ…胸で体当たり?するくだり、好きです…(うろおぼえ)
そして、革命期のヨーロッパにおける芸術の政治的利用やベートーベンの作品群など、音楽史的な観点からも楽しめました。
両サイドに配置したピアノの生演奏は、時空を超えてベートーベンの頭の中に流れる音楽と鑑賞者が共鳴するような感覚をもたらし、心ゆくまで没入できました。演奏者がこちらに背を向けるような形なので、ピアノを弾く手元が見えるのもなかなか貴重でしたね。
最後の第九に向かって熱が高まっていく演出、生の合唱は鳥肌が立つほどの迫力がありました。素晴らしかったです。こんな状況下ですが、やはり生の芸術体験は凄まじいものがありますね。空気の振動が直に肌に伝わる感覚は唯一無二だなと思いました。
【ネタバレ】ミッドナイトスワン感想 芸術美と憧憬
2020年9月25日、草彅剛主演の『ミッドナイトスワン』を見ました。私が草彅さんにハマってから初めて見る主演作品です。以下ネタバレを含む感想を記します。
(不届き者なので未だ小説を読んでおらず、曖昧な部分も多いのですが、単純に映画を鑑賞した記録として残しておきます)
はじめに
まず、見終わった後、腹の奥底から得体の知れない圧迫感が湧き上がってきて、賑やかな通りを歩いて帰るのが躊躇われるほどの感傷をもたらす作品でした。
本作品は差別・偏見、ネグレクト、自傷、貧困、自殺、性産業など、人間の薄汚く泥臭い部分を描き、かつそれらが美しいバレエと共に存在する世界を示しています。目をそむけたくなるほど悲惨な現実と、至高の美が混じり合いながら一つの世界を構築している様は、圧巻でした。
本作は公開前からも多くの議論がなされるなど、賛否両論はっきりと分かれる作品です。この作品を“LGBTQについて正しい知識を啓蒙し、当事者をエンパワメントする”という観点から見ると確かに不適切な描写も多いのですが、ただ主人公凪沙が一果に「もっと高く羽ばたいて欲しい」と願ったことに表れる “美に対する憧憬・信仰”といった観点から捉えると、非常に優れた物語としての一面も持つ、と私は感じました。
演技
最初は草彅さんの広島弁や女口調が浮ついて違和感を覚えましたが、中盤からそれはすっぱり抜け去って、もはや女性に見えるとかではなく“彼女は誰かが演じている架空の人物だ”ということを忘れるほど、そこに一人の人間が存在しました。圧巻、というか草彅さんはこんなに他者そのものになって大丈夫なんかと、“他者の人生を自分の体を用いて描き出す”という演劇の本質的な恐ろしさ(にも似た深い感動)を体感させられました。途中短髪にして男性の装いをする箇所など、普段の草彅さんに見えちゃうのかなと思ったら、ふっつーに凪沙そのものだったんですよね。当然のごとく…
そして私が一番草彅剛スゲーと思った場面は、「なんで私が」と凪沙が鼻水垂らしながら情けなく泣くシーンです。「なんで私が(こんな辛い目に遭わなければならないのか)」という悲痛な叫びは、人々にとって極めて普遍的なものだけれども、普通人に見せたりしない部分だから、それを他人が100%の力で露わにしてくれた時“私とあなたは時・感情を共有している、互いに存在している”と思い知らされ、腹の底が震えるほど心を衝き動かされました。ただ一人の人間の、みじめで苦しくて恥ずかしくてつらくて情けなくてやり切れなくて心がばらばらになるような姿をこうも率直に表現されると、心の奥深い部分が刺激されますね。
こんなべた褒めしながらも、序盤は草彅さんよりも一果役の服部樹咲さんの方に目が行きました。とても美しい子なのに、ふてぶてしくて、寡黙で、ぶあいそで、変な子の演技が本当に上手い!新人であることが信じられないほどでした。思春期らしいぼそぼそっとした発声や人をにらみつけるようなジトっとした目などが強く印象に残っています。バイトがバレてバレエ教室で面談?した後「もういい」とヒステリックに叫ぶところや、凪沙にバレエを教える時のこまっしゃくれた態度などは、あまりの迫真性にボー然としてしまいました。
りんも服部さん同様に新人である上野鈴華さんが演じられたようですが、彼女も本当に優れた俳優ですね。あの気が強く利発で面倒見がいい姉御肌の女子中学生としてのリアリティは思わず惹きつけられました。
あと、水川あさみさんのヤンママっぷりはすごい!名演です。訛りの強い荒々しい怒声はさすがでした。まさに体当たりの演技だったと思います。出演者全員、演技と書くのも躊躇われるほど真に迫った演技を見せてくれました。
美
本作の特徴は、性と生が密接に結びついていることを鮮烈な視覚イメージと美しい音楽で示した点にあると思います。あのメロディは刹那的な幸福を象徴するようで、しばらく頭から離れませんでした。そして、りんが“飛ぶ”シーンなど、断片的なショットがグロテスクなほど美しく、ある種のすがすがしささえ感じました。バレエシーンでは、躍動する身体、かたちのよい四肢、筋肉の収縮、トゥシューズが床と擦れる音、うら若く美しい少女の生、至高の芸術美を目の当たりにした時の恍惚など、ただそこにあることがすばらしく尊いものが、見事に表現されていたと思います。
また、草彅さんの造形の美しさも際立っていました。女性的な相貌ではないのに、しっとりと濡れるような色気があって、顔にかかる影が憂いを感じさせました。コツコツとヒールを鳴らして歩く時、いつも顔は少し下を向いていて、鼻梁や瞼が深い影を落とすのが見惚れてしまうほど綺麗でした。
貧困
物語では新宿と広島という2つの場所が登場しますが、都会と田舎という隔たりはあるものの、どちらも猥雑で、薄汚くて、美しい夢なんて見出せないような町の姿がまざまざと描き出されていました。特に、田舎としての広島の、道や田んぼはだだっ広いのにどこか少しずつ心が削られていくような閉塞感や文化的な貧困の描写は非常に秀逸だったと思います。広島弁の荒々しい発声も、美しいバレエ音楽や、バレエの先生(真飛聖さん)の物腰柔らかでかつ芯のある上品な発声とは対照的で際立っていたと思います。
LGBTQをめぐる問題
性的指向は精神と身体の一番深いところで交わるものであり、他者がみだりに触れて傷つけていいものではないと深く考えさせられました。TVショーで形作られたトランス像-ユーモア・毒舌・奔放といったキャラを全面に押し出し画一化されたイメージ-の裏に、人の数だけ物理的・精神的な痛みが存在すること改めて思い知らされました。面接の際の男性社員の「研修受けましたよ、最近流行ってますよね」(セリフ合ってる?)という発言から読み取れる本質的な無理解や、女性社員による“デリケートなものとして明らかに気を遣われている”態度も、当事者にとっては自分が一般からかけ離れているという周縁意識をもたらすものだなと感じました。そして、特に凪沙が実家を訪れたシーンが凄まじかったです。凪沙母が凪沙の身体を見た時の悲鳴や恐ろしいものを見るような目、病気・化物呼ばわりなど、あまりに生々しく不快感を呼び起こすほどでした。一元的な“誰それが悪”という表現ではなく、社会に深く根付いた差別・偏見を吐き気がするほどあざやかに映し出していました。
母親
コンクールで、一果が舞台から実母の姿を見つけて踊れなくなってしまう(?)シーンは、どんなに信頼関係を築いたと思っても結局は血の繋がりが一番なのかと、見てるこちらまで苦しくなるものでした。凪沙の痛みを取り除いてやりたいと思わずにはいられない箇所です。そして性別適合手術を受けて、やっと自らの望んだ姿・母親になれると思ったらそうではなくて…というシーンは、血縁としての“血”と、流れ出すと痛みを伴う・生命維持に必要な物質としての“血”の二つが重なって印象付けられました。
一果が凪沙にバレエを教えるシーンなどは本当に微笑ましいものですね。一果は凪沙にとって理想の姿であり、母性(小さく愛おしいものを守り育てたいという感情)というよりは、美しいものを慈しむ気持ちであったり、自分の理想が不当に扱われているのを見て憐れに思い、自由に羽を広げさせてやりたいと願う気持ちであったり…が向けられていたのではないかと思いました。それが短い間でしか叶わなかった凪沙を思うと痛みが倍増ですね。
結婚式会場で突如踊り始めた娘について「やめさせた方がいいんじゃないか」と言うりん父に対し、りん母はそのままうっとりと娘を見つめながら自由に踊りを続けさせるシーンも大好きです。鼻持ちならないセレブママとしての印象が強いりん母ですが、あの場面では純粋に娘の美しさを思い、確かな情愛をもった母親の姿だったんですよね…
一果母は娘が自傷している時点で良い母親だとは言えないのですが、彼女なりに一果を守ろうとしていて、作品全体として決して“凪沙=聖母、一果母=悪”という描き方をしなかった点は良いなと思いました。彼女が一人で一果を育ててきた時間の厚みは確かなもので、一果も母親に呆れながらも共に過ごしてきた時間ゆえの?特別な思いを抱いているのが、私自身も母親に失望しながらもどこか期待するのをやめられない感覚を思い出してすごくリアルに感じられました。
凪沙、一果母、りん母、凪沙母、全く属性の異なる母親たちだけれども、みな愚かしくも愛すべき存在である点は共通していました。
りんと一果の関係性
思春期をバレエに捧げる少女二人の、嫉妬、苛立ち、焦燥、鬱屈などの泥臭い感情や、卓越した技芸を見た時のやりきれない思い、憧憬などを丁寧に描いていました。しかも、ありがちな“どろどろした女同士の対立”ではなく、尊い親愛として描いているのが良いなと思いました。女女の関係性の表象は百合か憎悪の二極化になりがちですが、本作品での描写は繊細でありながらもインパクトがあって、極限まで美しさが追求されていると思います。
バレエに金も時間も費やしてきたであろうりんは親を疎ましく思いつつも本当にプロを目指していただろうし、そんな中で挫折し、同時に傑出した才能に出会ってしまった時の単純な嫉妬だけではない複雑な感情(すばらしい技芸に感嘆するよろこびと、でも自分にはそれがないことを実感するという実践者としての苦悩)が如実に描かれていました。二人のキスは、性愛に拠るものではなく、そういう芸術に魅了された思春期の少女特有の関係性だと思いました。圧倒的な才能の持ち主に対して、そのすべてを自分の中に取り込みたい、愛おしい、憎たらしい、深く繋がりたいと思う気持ちは、実際バレエや音楽など文化活動をやっていた人には痛いぐらい分かると思います。
りんは、私が一番好きなキャラです。最初の体験レッスンの時、一果に(手をここに置くんだよ)ってトントンするシーンや、慣れた手つきで客をバンバン捌くシーンなどとても好きです。また、りんが“飛ぶ”シーンは、この映画の中で一番美しい場面だと思います。上野鈴華さんがりんを演じてくれて本当に良かった。すごくすごく綺麗だった。
批判
説明不足、ありがちなドリーム展開(バレエを始めてすぐ才能が開花するなど)は否めませんが、それを圧倒する役者の演技があったと思います。
ただ、最後凪沙が要介護の状態になるという展開ですが、術後が悪かった?手術が荒かった?セルフネグレクト?など様々な解釈があるけれども、あそこの説明を怠っていたのは配慮不足だなと感じました。実際、タイの医療技術について誤解を与えかねないし、“悲劇のトランス像の再生産”と批判されるのも無理はないほど、トランス女性の境遇があまりに悲劇的に描かれていました。全員が全員疑問に思ったことを調べるわけでもなし、映画のもつ社会的責任を果たすべきだったとは思います。性別適合手術について一般に広く認知されてない世の中で、無関心な層にショッキングな映像で訴えかけるという手法は、そりゃ多少の効果はあるだろうけど、基本的には悪手だと私は考えます。自分がマイノリティであったら、マジョリティにこんな描き方されるなんてたまったもんじゃないと思うだろうし…私自身は今回批判的に捉えた方の意見を尊重したいなと思いました。
あと、最後の国際コンクール?での「見てて」というセリフは無粋かなーとも思ってしまいました…
おわりに
本作品は決して100点満点の作品だとは言えないと思います。しかし、役者の演技や美しいバレエなど、非常に優れた部分も確かにあったと思います。とにかくたくさんの人に見て・批評してもらって、フィクションの在り方を模索していけたらいいですね。何はともあれ、草彅さん、お疲れ様です!!!おわり♫